出雲の開業医「生活密着医療がモットーです」

  • ブログの紹介
     地域医療 = 生活密着医療と考え、「地域の方々の生活に貢献できる医療の進化を推進する」がモットーの開業医が、診療、研究、IT事業に奮闘する日々を出雲の地から綴ります。
  • 著者プロフィール
    杉浦弘明(すぎうら ひろあき) 1965年生まれ。1991年島根医大卒。島根県出雲市に「すぎうら医院」を設立して15年目の開業医。日常診療の傍ら、研究・IT事業など多方面で活躍中、後世に残る英語論文にも挑戦している。

研究と臨床

「共通診察券を活用した健康情報活用基盤構築の実証実験」に参加して


■隣市で屋根瓦の色が違う

西日本にある島根県は、他府県の方からしばしばお隣の鳥取県とどちらが西か東かでよく間違われます。
島根県は西にあり、3つの地域(図1)に分けられます。隠岐の島、出雲地方、石見地方です。

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出雲地方と石見地方は方言と伝統も随分と違います。出雲地方の方言は東北地方と同じ訛りの「ズーズー弁」で、私もしっかりネイティブ出雲弁です。一方、石見地方は関西弁に近い感じです。
昔から屋根瓦の色の違いについて親から教えられてきました。石見が赤瓦で出雲が黒瓦です(写真1)。

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(写真1)
日本海に面した石見地方の民家、
屋根瓦は赤茶色






そして、石見地方は山間部と海岸が接近しているので海岸端に民家があることが多く、出雲地方は平野部があります。
古い民家は日本海からの西風から母屋をまもるため、築地松という大きな垣根が施されています(写真2)。
残念ながら新たに建築されることがなく、また松くい虫の被害を受けているため、その数はどんどん減少しています。

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(写真2)
築地松という西風を遮る防風林に
囲まれた出雲平野の民家








■地域をまたいだ医療IT連携に挑戦

私の住んでいる出雲市の隣に石見地方の大田市があります。
中核病院の大田市立病院では外科医不足のため、2年前に救急告示を取り下げるという事態になりました。これは大田市の住民の方にとっては大問題です。
大田市の急患の方は地域を越えて車で40分以上かけて出雲市の医療機関を受診しなければならなくなりました(多くの方の働きで、この4月から2年ぶりに救急告示再開となりました)。

この間、急性期に出雲市の島根大学付属病院や島根県立中央病院を受診された患者さんが引き続き大田市の医療機関で治療を継続したり、あるいは大田市立病院で加療中の方が急性増悪時に出雲市の医療機関した時のために、医療情報が両市で連携できる仕組みが求められました。
また同様に、出雲市の医療機関と大田市の調剤薬局の連携も模索されていました。
この時に、総務省から「共通診察券を活用した健康情報活用基盤構築の実証実験」の公募がありましたので、大田医師会と出雲医師会でコンソーシアムを組み参加しました。
これまで出雲医師会を中心とした医療連携の経験はありましたが、隣の市とはいえ地域をまたいだ医療連携はありませんでしたので、多くの打ち合わせを行い、一から医療IT連携を行いました。


その内容は下記となります。

1. 診療予約サービス・・・ 患者さんが自宅から直接診療予約を行う
2. 診療情報閲覧サービス・・・ 患者さんが検体検査結果と処方履歴を自宅で閲覧する
3. 健診情報閲覧サービス・・・ 健診ネット(医療ネットしまね)に参加している医療機関で受けた健診結果を閲覧する
4. 処方情報電子化サービス・・・ 医療機関の処方指示内容を電子化し、薬局のレセプトコンピューターと連携する
5. 調剤情報閲覧サービス・・・ 調剤薬局での処方実施内容を医療機関および患者自宅で閲覧する



昨年度、私は一医療機関として上記の総務省の実証事業に参加しました。
写真3は、医療機関から発行された処方箋内容が電子化情報となり、ネットを経て直接薬局のレセコンに初めて取り込まれた瞬間の「これは便利だ。すごいです」とおっしゃっている瞬間の調剤薬剤師の先生のお顔です。
決してやらせではありません。
この処方情報電子化は今回の事業の目玉の一つです。この瞬間、私はこの実証実験の成功を確信しました。
 
この経験は今後、島根県全県下での医療情報構築に生かされることを期待しています。

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(写真3)
処方箋の電子化情報をネットで
直接薬局のレセコンに取り込むことに
初めて成功した瞬間の薬局の先生












                

この春に学位を取得しました

春は桜に彩られながら、別れと新たな出会いが交差する節目の季節です。この季節の経験は日本文化のメンタリティーの一部となっていると思いますが、一方で国際化のために秋入学が必要だと思います。

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3月16日に、奈良県立医科大学大学院博士課程を修了し、学位をいただきました。写真は修了日に研究室の入り口を撮影したものです。
5年前、以前より研究をご一緒させていただいた国立感染症研究所の大日康史先生に、開業医を続けながら研究に取り組む一つの集大成として、学位取得を目標にするように勧めていただきました。その際、奈良県立医科大学健康政策医学講座教授の今村知明先生をご紹介いただきました。


大学院を受験したのは2007年。ちょうど妻が次男を妊娠しており、お腹の子と会話ができる頃に卒業だろうと考えたことを思い出します。



  論文が世界のどこかで役立つことを夢見て…   

入学後は、一般住民に約100日間、毎日インターネット上で健康調査を実施し、季節的に変動する疾患の有病率を検討するテーマをいただきました。対象疾患はインフルエンザ、胃腸炎をはじめたとした感染症のほか、花粉症などのアレルギー性疾患についてです。この研究は教室員全員で行う研究です。


なぜネット調査を毎日実施するかというと、医療機関を受診する患者さんを対象とした調査では、その疾患の有病率は求められません。また、一般住民を対象とした調査であっても、一回限りの横断調査では慢性疾患の有病率には有効でも、ダイナミックに患者数が変動する急性疾患の把握が難しいのです。しかし毎日の調査なら急性疾患の病態を把握できます。このような一般住民の方を対象とした毎日の調査の場合、従来の紙媒体による調査は実現性に乏しいため、ネットを利用しました。


調査では、回答者の方に最後まで調査にご協力いただけるよう、各地区でそれぞれの症状の方がどれだけいるかをリアルタイムに表示したり、毎日健康にかかわるショートエッセイを掲載するなどの工夫を施しました。その結果、インフルエンザについては地域の流行が急増した時に異常警告が発生されるシステムを完成することができました。


このほか、花粉症の研究では毎日の有病率と花粉の飛散量の関係について検討するなど、様々なテーマで大変興味深い結果を得ることができ、大学院での4年間は瞬く間に過ぎました。こうして無事、指導教官、スタッフのみなさん、家族に支えられ、修了の日を迎えられたことを感謝しています。


私たち実地医家は、医療制度の変化や、新型インフルエンザなどの新たな疾患、一般の方の医療への期待など、外部から我々に向けられた内向きのベクトルに対して必死に努力しなければなりません


しかし今回の研究生活を通じて、研究には「真実」という普遍の目標に対して、自己から発する外向きのベクトルを打ち立てられる醍醐味があることに気づきました。そして研究の過程で学んだことが臨床にも大いに役立つことがわかりました。
研究成果をまとめた論文が世界のどこかで臨床家や患者さんに役立つことを夢見て、今後も博士研究員として研究を続けます。


スギ花粉定点観測と外来患者数

2月19日は出雲市でも久しぶりに膝下までの積雪となりました。
昨年から出雲市にある鼻高山の一本の杉で、花粉のつき方を観察しています。写真は2月23日の様子です。残雪の中に一本の杉があり、枝によっては先から3~4割程度まで花粉がついていますが、中にはほとんど花粉がついていない枝もあります。花粉はまだ固くて、指ではじいても割れません。

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クリニックの外来でも、毎年、スギ花粉の飛散前に薬を飲みたいという患者さんは来院されますが、今年はまだ花粉症の症状で来院される方はいません。


昨年の観察結果では、23日のような状態から数日後には先から根元まで花粉がつきました。そして、雄しべがふわっと柔らかくなって、つぶすと周辺が黒板消しを叩いたようになり、場所によっては黄色い煙のように漂うところがありました。
あらゆるアレルギー疾患の中でも抗原そのものが遠目でも観察できる疾患はそうないと思います。昨年は、まさにその日から花粉症の患者さんがたくさん来院されました。



花粉量と患者数はなぜパラレルではないのか

この先に疑問を感じています。一斉に花粉が飛んだあと、まだ花粉が飛んでない枝や、成熟の遅れている木から後日、残りの花粉が飛びますが、その花粉量は日によってまちまちです。これは環境省の花粉観測システム(はなこさん:http://kafun.taiki.go.jp/)でも確認できます。
しかし、患者さんの数は日に日に増えていきます。日々の花粉の飛散量と日々の患者数はパラレルではありません。花粉飛散が少ない日でもシーズン半ばでは患者さんの数は多いのです。



こうした臨床での疑問点を疫学的に解明しようと思い、現在、奈良県立医科大学大学院健康政策医学講座に在籍して4年間を終えようとしています。すばらしい指導教官とスタッフのみなさん、研究仲間に迎えていただいて、あっという間の4年間でした。
現在、教室の皆さんと、日々の花粉飛散量と患者数がノンパラレルである点について議論を交し、共同で海外投稿予定の論文を書き進めています。ここで若干の問題点があります。
それは、スギ花粉症があまりに日本国内の問題であり、海外のジャーナルに投稿されていないため、引用できる英語論文が極端に少ないということです。しかしこの点もクリアして、来年の今頃にはpublishされたらいいなと思います。



これまでの論文作成の過程で多くのスキルが身につきました。
インターネット環境のおかげで、論文検索は自宅でできます。ごく普通のパソコンで少々複雑な統計処理も行えます。文献管理もEndnote等の専用ソフトを使えばジャーナルのダウンロード、ワード内での順番の差し替えはもちろんのこと、ジャーナルの投稿規定に合わせて、ほぼ瞬時に参考文献リストの表示形式の変更まで可能です。投稿もオンラインで行います。
このブログをご覧いただいている開業医の先生方が卒後論文をお書きになられた頃とはずいぶん様子が違うと思います。
その様子を後日お知らせしたいと思います。



初秋に流行した感染症の病原体検査を実施しました

私の母校の島根大学医学部と当院は、同じ島根県出雲市にあります。約3.5Km離れています。

当院では、医学部5年生のポリクリ学生さんの診療所実地研修を行っており、小児の問診と診察、胸部X線の読影、模擬患者さんで超音波のハンズオン実習をしています。診療所ではリアルタイムで患者さんの病態を把握できる超音波装置を多用しますから、その有用性を理解していただき、たとえ一人の学生さんでも、将来の記憶に残る実習になればと思っています。

写真は、学生さんに説明しているところです。私自身が研修医時代に指導医の先生に手取り足取り教えていただいたのを思い出しながら行っています。

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■外来症候群サーベイランスで呼吸器症状の急増を把握

さて今回は、初秋に流行した感染症についてです。

実は、私たちの出雲市ではユニークな感染症監視をしています。
島根大学医学部附属病院、島根県立中央病院、8カ所の診療所(内科、小児科)の電子カルテから、患者さんの来院時の症状を調査し、「熱」「呼吸器症状」「下痢」「嘔吐」「発疹」「痙攣」の日々の変動を調べています(外来症候群サーベイランス)。 これは国立感染症研究所の大日班研究事業の一環です。

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過去のベースラインより患者数が異常に増加した場合、その医療機関にアラートサインがでます。
各医療機関の持ち点を10ポイントとして、医療機関の異常の一致度を計算します。もし10医療機関すべてで「アラートあり」となった場合、100ポイントが出るようになっています。その結果が グラフの「地域的流行の探知」です。この1年分を振り返ったものです。
9月初めから、アラートの赤印がたくさん見られます。何らかの呼吸器症状を持つ患者さんが複数の医療機関に、過去同時期よりもたくさん来院されました。この様子はリアルタイムにわかります。

当院でも昨秋、マイコプラズマ肺炎が大変流行し、例年以上に重症例もありました。
また、マクロライドやアジスロマイシン耐性だったのでしょうか、長期化した患者さんも多数いらっしゃいました。乳児では秋にもかかわらず、RSウイルス迅速検査陽性の方がいらっしゃいました。

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■原因菌を特定せずに「感冒」とした例が多かった

サーベイランスの状況と当院での流行状況について、日頃からお付き合いのある国立感染症研究所の大日康史先生に10月初めに相談しました。
 
国立感染症研究所は全国の調剤薬局の処方薬の動向を毎日監視しておられますが、0月初めから感冒薬の処方が急増していることに注目されていました。そこで、これらのサーベイランスで探知された感染症は何か、同研究所の藤本嗣人先生に相談したところ、患者さんの同意を得てベッドサイド診断の一環として実施しているキット残液があれば、検査が可能かもしれないということでした。
幸い、アデノウイルスの迅速診断をしたキット残液が確保できていたため、ウイルスとマイコプラズマ肺炎の多項目呼吸器ウイルスPCRを用いて検索をしていただくことになりました。藤本先生は大日先生の厚生労働科学研究での知り合いであり、病原体の診断を専門としていることからスムースに検査を実施することができました。
  
2011年10月4日~10月28日に当院に来院した呼吸器症状または有熱者のうち、呼吸器系の感染症が疑われた方を対象として病原体検査をしました。対象は50名で、その年齢層は1歳未満乳児2名(男性1名、女1名)、1歳以上7歳未満の幼児25名(男性12名、女13名) 、7歳以上13歳未満の小学生10名(男性6名、女4名) 、13歳以上の未成年4名(男性2名、女2名) 、成人8名(男性3名 女5名) 、詳細不詳1名です。
 
単独感染で検出された病原体は、年齢層別の病原体別グラフに示すとおり、ライノウイルスが12人、パラインフルエンザ1型が3人、エンテロウイルスが4人、マイコプラズマ肺炎球菌が2人、RSウイルスA型が2人、RSウイルスB型が1人でした。
重複感染で検出された病原体は、パラインフルエンザ1型とライノウイルスが1人、RSウイルスとライノウイルスが1人、RSウイルスA型、RSウイルスB型とライノウイルスが1名でした。非検出されなかったのは23人でした。

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乳幼児では多い順に、ライノウイルスと今年に限り秋に流行したRSウイルス、エンテロウイルス、パラインフルエンザでした。小学生以上はマイコプラズマ肺炎が原因だったと思います。実に多くの種類のウイルスが流行していました。 

RSウィルスは迅速診断で診断可能です。しかし、イノウイルス、エンテロウイルス、パラインフルエンザと、原因菌まで考慮せずに「感冒」として治療している症例が多いことを改めて知りました。またマイコプラズマは乳幼児で検出されませんでした。これは、マイコプラズマ肺炎は5歳まで一度感染はするものの無症状のことが多く、その後免疫が維持されずに、5歳以降の再感染時に肺炎として顕性化するといわれていることに近いものだと思いました。



■鼻汁や咽頭ぬぐい液で診断できるマイコプラズマ肺炎の迅速診断キットが欲しい

マイコプラズマ肺炎については当院では迅速診断キットは導入していませんので、外注の抗体検査と寒冷凝集素を依頼することがありますが、小児に対する血液検査はよほどでないと実施していません。今後、鼻汁や咽頭ぬぐい液で診断できる利便性の高い迅速診断キットがあればいいなと思いました。

今回の病原体診断を通して、20年前医師になりたての頃、インフルエンザウイルスは臨床診断しかできず勘に頼って治療をしていたのが、やがて開発された迅速診断キットにより正しく診断できるようになった、あの、すがすがしさを思い出しました。
これまで私は、患者さんや住民の症状を調査して感染症の広がりを把握する研究をしていました。そして今回、その研究と実際の検体による病原体調査をリンクすることができ、とても有意義な経験でした。今後は症状と性、年齢、季節から、患者さんの病原体が類推できる方策を統計学的に考えたいと思います。

(謝辞:国立感染症研究所 大日康史、藤本嗣人両先生のご指導・ご協力に大変感謝いたします)