出雲の開業医「生活密着医療がモットーです」

  • ブログの紹介
     地域医療 = 生活密着医療と考え、「地域の方々の生活に貢献できる医療の進化を推進する」がモットーの開業医が、診療、研究、IT事業に奮闘する日々を出雲の地から綴ります。
  • 著者プロフィール
    杉浦弘明(すぎうら ひろあき) 1965年生まれ。1991年島根医大卒。島根県出雲市に「すぎうら医院」を設立して15年目の開業医。日常診療の傍ら、研究・IT事業など多方面で活躍中、後世に残る英語論文にも挑戦している。

プロジェクト

全県下で患者情報がつながった!

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今年1月から島根県全県で医療ネットワーク「まめネット」が運用開始となりました。
これまでも中核病院と関連する病院や診療所間を結ぶ医療情報ネットワークは全国ではありますが、県全体での運用を目指す方式は珍しいものです。各病院では様々なコンピューターが導入されているので、ただつなぐというだけではデータの交換ができません。島根県では情報共有のために参加するすべての医療機関のデータを標準化しました。 これにより、県下の医療機関であればインターネットを用いて同じ様式のデータを用いて患者情報を相互に連携可能となりました。2013年度中に県内の中核病院から医療データが提供されるようになります。
写真は島根県立中央病院のロビーに設置されている、患者さんの「まめネット」参加受付コーナーです。

■アナログ方式が多い医療現場

一般のビジネスシーンの情報伝達手段はメールが主体です。郵便が使われることはずいぶんと減りました。個人情報を気にしなくてもよい場合、文字情報の受け渡しがとても簡単だからです。しかし、医療関係以外の方は驚かれるかもしれませんが、今でも日本の医療現場では、他の医療機関に情報を伝える場合に、手書きやワープロ打ちしたものをプリントアウトし、郵送や持参で届けるというアナログな方式が用いられています

病院やクリニック内では診療用コンピュータ (電子カルテ)を用いていますが、いろいろなメーカーがあります。異なるメーカー製電子カルテを導入する医療機関同士では、情報の受け渡しができません。しかも、個人情報が厳格に保護されなければなりません。この課題を乗り越えるために相互利用できる仕掛けが必要です。それが今回、島根県が用いた厚生労働省電子的診療情報交換推進事業(SS-MIX)方式です。

例えば、A病院の電子カルテの内容をSS-MIXで変換します。 この情報を伝えるのは、もちろんインターネットです。VPNという仕掛けを使って暗号化して個人情報を守ります。SS-MIX方式の情報を受け取ったB病院やC病院では、それぞれのシステムで患者さんの情報を閲覧することが可能となります。これまでも中核的な大病院が、関連病院や診療所を対象としてSS-MIXを用いた地域医療連携は実施されていましたが、今回島根県では、全県下で利用できる仕組みを作りました。こうして 「まめネット」は出来上がったのです。

■紹介先での治療がリアルタイムに分かる!
 
現在、私のクリニックでは14名の患者さんの医療データが交換できるようになりました。これにより、県内の病院に紹介した患者さんが先方でどのような治療していただいているかが分かるようになりました。2月には私のクリニックのデータも提供できるようになります。私は開発に携わっていましたので、実験段階で架空の患者さんのデータがどのように画面表示されるかは見ていました。しかし、実際に紹介した患者さんが先方の病院で治療していただき、回復される様子を自分のクリニッでリアルタイムに観察した時は、とても感動しました

この経験で、これまで医療機関という個別のハードに収まっていた情報が、もう一つの大きな入れ物である「患者さんの住む地域」の中で運用される様を実感しました。これはちょうど10年前、紙で運用していたカルテを電子的にオンラインで運用した時に、紙の時には1人でしか内容をみることができなかった医療情報を、スタッフ全員がそれぞれ別の端末によって同時に共有できるようになった時に感じたことが、ずっとスケールアップした感じです。
2013年度中に準備が整った医療機関から順次データが提供されますので、まめネットの発展と患者さんへの寄与が今からとても楽しみです。

学校医主催のスポーツ教室は楽しい!

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私が学校医を担当する出雲市立今市小学校では、毎週土曜日、2年生から4年生までを対象に学校医主催のスポーツ教室「ハッピーアスリーツ」を開いています。写真はその一コマで、これからダンス教室が始まるところです。オレンジ色のシャツを着て子供を肩車しているのが私です。個人情報を大切にする時代ですから、笑顔たっぷりの子供たちの正面写真をお見せできないのが残念です。

私が子供の頃、メディアはテレビしかなく録画機能もないので放映される時間にしか見ることしかできず、メディアの視聴時間が長時間にわたることはありませんでした。下校時刻も早かったので、家にランドセルを置いて再び学校へ行ったり、遊園地や稲を刈った後の田んぼで自由に遊ぶなど、1日中よく動き回っていましたので、運動不足の子供はあまりいませんでした。

しかし今は当地でも、運動をほとんどしない子供のグループと競技スポーツを長時間している子供のグループに極端に分かれています。 運動不足はもちろん大問題です。 その一方で、種目に限らず特定のスポーツを長時間行うのは骨格の定まらない小学生には十分な配慮が必要なため、学校医としてスポーツ指導者に以下のように説明しています。

「小学生は大人の小型版ではないので、高校生や大人のしている練習を少なくしてやればいいというものではありません。勝負の結果や成績は大変気になりますが、慌てずゆっくりと育成する必要があります。将来有望なお子様でも、小学生の時にケガやスポーツ障害を負い後遺症を残すと将来活躍できなくなります」  

当日の段取りは大変だけど…

そのうち説明だけでは物足りなくなり、12年9月に学校医主催のスポーツ教室を立ち上げました。
スポーツ指導をして初めて、指導者の方々の苦労が分かりました。当日の段取り、外部講師との日程調査、物品の調達、保護者への連絡等、様々なことをしなければなりません。

土曜日の午後2時から開始して、1時間目は野球に関する基礎トレーニングです。2時間目はさまざまなスポーツに取り組んでいます。これまでに、ソフトテニス、卓球、ダンス、バスケットボール、バレーボール、サッカー、バドミントンをしました。今後は陸上、空手、スケートなど、たくさんの競技を予定しています。
 
開始から3カ月が経ち、参加している子供たちはぐんぐん上手になっています。そして私たちコーチの言うことをよく聞いてくれます。コーチたちはその姿を見て、「この活動を始めて良かった」と思っています。2年生から4年生までは、なるべく競争の少ない楽しめるスポーツを経験し、5年生でチームプレーを理解し、6年生になったらスポーツで活躍できる喜びを実感してくれたら嬉しいです。そして大人になっても、生涯、スポーツ好きであってほしいと思います。

学校医主催のスポーツ教室を企画しました

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私は小学校の学校医をしています。

最近、子どもとメディアとの関わりや、運動についての問題が取りざたされます。
特に運動に関しては、全くしない子どもとスポーツ少年団で朝から晩までやっている子どもとに2分化され、ほどよく遊んでいる子どもが少ないです。
運動不足も問題ですし、一方で、オーバートレーニングは運動器機疾患が懸念され、骨格の定まらない小学生に対しては十分な配慮が必要です。

学校医として、こうした実態報告や相談を学校から受けてきたものの、実際に担当校の子どもたちと遊んだり、体育の授業を共にしたことがなかったので状況を把握しきれずにいました。
そこで2月期から学校医として新しい取り組みを考えていますのでご紹介いたします。



学校医と小学生が一緒にスポーツを楽しむ

私が担当する出雲市立今市小学校で、毎週1回、1回2時間で学校医主催のスポーツ大好きプロジェクト「ハッピーアスリーツ」を半年間1単位で3年間実施することにしました。
 
野球に関する基礎トレーニング1時間とプラス1時間の計2時間で、さまざまなスポーツに取り組んでもらおうと考えています。
野球をメインスポーツに据えたのは、私自身が野球好きであることと、地元の野球少年団の全面的なご支援を得ることができたからです。野球少年団の優秀な監督、コーチの方々でさえ、子どもたちが一つの競技に集中してしまうことに違和感を覚えておられ、野球の基礎トレーニングと様々なスポーツの両方を低学年から取り組む今回の企画にご理解をいただきました。
 
毎週、子どもたちと共に汗をかきながら、子どもたちに自宅でのメディアとの関わり方を聞いたり、体力などをチェックして、その中で感じたことを学校教育の現場へフィードバックしたいと思います。



ITを活用した島根県の医療機関連携を構築しています


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■母校で活躍する同級生

先週、母校・島根大学の脳神経外科教授、秋山恭彦先生(写真左)の講演会がありました。秋山先生は私の同級生です。講演後、卒後も地元の医療機関に勤める同級生たちでミニ同窓会を催しました。秋山先生は学生時代からコツコツと積み重ねて勉強される方で、今振り返っても学生時代から教授になられる素質のある方だったと思います。
羨ましいのはそのご容姿で、相変わらずイケメンです。私と写真を撮った後も、ツーショットをねだる方がいました。考えてみれば、私はツーショットを頼まれたことがありません。

秋山先生には母校を足掛かりに、大きくご活躍いただきたいと思います。



■島根の地域医療再生計画

東西約200kmに及ぶ島根県は7つの二次医療圏から成っています。病院を多く抱える松江圏や島根大学附属病院・島根県立中央病院がある出雲圏を除くと、県西部や離島・中山間地域で医師不足が深刻化しています。特に産科・外科・小児科などの特定の診療科において、医療提供体制の維持・存続が脅かされる状況になってきています。

皆さんの都道府県でも、国から交付される地域医療再生基金による「地域医療再生計画」が策定されつつあると思います。島根県は事業費87.5億円で整備されます。
その内訳は下記の5事業です。

1.医師をはじめとした医療従事者の確保や県内定着の促進
2.ドクターヘリの導入
3.ITを活用した医療機関連携
4.施設・設備整備による医療機関の医療機能の確保
5.がんの予防及び早期発見の推進を図るため、総合的ながん対策



■ドクターヘリで活躍する同級生に触発されて

島根県ではすでにドクターヘリは運用されており、私の診療所の近くにある島根県立中央病院の屋上に待機し、日に幾度も出動しています。私の同級生の救急医もドクターヘリで活躍しています。

同級生に触発され、私も島根県が抱える医師不足問題の解消に向けて積極的に役立ちたいと思い、県の地域医療支援会議の医療IT専門部会委員として、下記のITを活用した医療機関連携の仕事に参加させていただいています。



■地域医療再生基金によるITを活用した全県医療機関連携

この事業では、島根県が整備運営費を負担し、島根県内の全医療機関と調剤薬局がVPN・オンデマンドVPNを利用してネットワーク化されます(調剤薬局については予定)。そして、このネットワークと共通患者IDをNPO法人しまね医療情報ネットワーク協会(http://www.shimane-inet.jp/about/index.html)が自立的に運営管理します。


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写真の手のひらは、島根県の行政のイメージです。女性の手のように優しいサポートによって、NPO法人が全県の医療機関をVPNネットワークで結ぶイメージです。

実際の医療ウェブアプリケーションは、全県で利用するものはNPO法人が導入管理し、医療圏域ごとに必要な地域アプリケーションは地域ごとに策定します。

ITを活用した医療機関連携で現在計画中の取り組みは、以下の5つです。
1.全県下の医療機関相互による紹介状・予約・検査予約・地位医療連携パス
2.患者情報の共有
3.画像連携(読影依頼・レポート参照)
4.調剤薬局における医療情報閲覧(電子お薬手帳の薬局間での利用)
5.処方情報の電子化

紹介状については電子認証も想定しており、検査予約、診療予約システムも含めて診療所での事務負担の軽減を目的としています。

高額医療機器の共同利用を促進したり、その結果として画像連携をすることにより、医療機器のリソース不足を解消します。読影サービスは放射線診断医不足に対応するとともに、各地域の医療機関での画像診断の精度向上につながります。

医療機関同士の患者情報の共有化は、医療の質と安全性を高めます。そして、がん地域連携パス等の医療機関連携は専門医と診療所医師との間の有効な情報伝達手段となります。

医療機関から発行される処方箋内容の電子化と、調剤薬局のシステムとの連携も検討しています。これは調剤薬局での業務負担軽減を図ります。そして、調剤薬局同士で調剤情報を相互閲覧することにより、重複調剤や併用禁忌例を監視し、より効率的な処方監査に役立つと思われます。



■大都会の医療環境に近づきたい

今後は、上記の医療機関連携によるEHR(Electronic Health Record)的要素に加えて、各個人のPHR(Personal Health Record)要素である慢性疾患のデータ管理、保健指導への活用、さらに健診や学校検診で得られた子供の成長記録や、予防接種などの情報の共有についても検討していきます。

将来の抱負として、介護福祉分野との連携や、行政と連携して提出書類のペーパレス化を行うほか、究極的には1カルテを実現し、生涯の医療情報がすべて閲覧できるようになればと思っています。

東西に長く、過疎化・高齢化が医師不足に追い打ちをかける島根県の医療環境ですが、このネットワークによって情報伝達をスムーズにし、少ないリソースを有効活用することによって大都会の住民が現在享受している医療環境に近づきたいと思っています。

「共通診察券を活用した健康情報活用基盤構築の実証実験」に参加して


■隣市で屋根瓦の色が違う

西日本にある島根県は、他府県の方からしばしばお隣の鳥取県とどちらが西か東かでよく間違われます。
島根県は西にあり、3つの地域(図1)に分けられます。隠岐の島、出雲地方、石見地方です。

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出雲地方と石見地方は方言と伝統も随分と違います。出雲地方の方言は東北地方と同じ訛りの「ズーズー弁」で、私もしっかりネイティブ出雲弁です。一方、石見地方は関西弁に近い感じです。
昔から屋根瓦の色の違いについて親から教えられてきました。石見が赤瓦で出雲が黒瓦です(写真1)。

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(写真1)
日本海に面した石見地方の民家、
屋根瓦は赤茶色






そして、石見地方は山間部と海岸が接近しているので海岸端に民家があることが多く、出雲地方は平野部があります。
古い民家は日本海からの西風から母屋をまもるため、築地松という大きな垣根が施されています(写真2)。
残念ながら新たに建築されることがなく、また松くい虫の被害を受けているため、その数はどんどん減少しています。

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(写真2)
築地松という西風を遮る防風林に
囲まれた出雲平野の民家








■地域をまたいだ医療IT連携に挑戦

私の住んでいる出雲市の隣に石見地方の大田市があります。
中核病院の大田市立病院では外科医不足のため、2年前に救急告示を取り下げるという事態になりました。これは大田市の住民の方にとっては大問題です。
大田市の急患の方は地域を越えて車で40分以上かけて出雲市の医療機関を受診しなければならなくなりました(多くの方の働きで、この4月から2年ぶりに救急告示再開となりました)。

この間、急性期に出雲市の島根大学付属病院や島根県立中央病院を受診された患者さんが引き続き大田市の医療機関で治療を継続したり、あるいは大田市立病院で加療中の方が急性増悪時に出雲市の医療機関した時のために、医療情報が両市で連携できる仕組みが求められました。
また同様に、出雲市の医療機関と大田市の調剤薬局の連携も模索されていました。
この時に、総務省から「共通診察券を活用した健康情報活用基盤構築の実証実験」の公募がありましたので、大田医師会と出雲医師会でコンソーシアムを組み参加しました。
これまで出雲医師会を中心とした医療連携の経験はありましたが、隣の市とはいえ地域をまたいだ医療連携はありませんでしたので、多くの打ち合わせを行い、一から医療IT連携を行いました。


その内容は下記となります。

1. 診療予約サービス・・・ 患者さんが自宅から直接診療予約を行う
2. 診療情報閲覧サービス・・・ 患者さんが検体検査結果と処方履歴を自宅で閲覧する
3. 健診情報閲覧サービス・・・ 健診ネット(医療ネットしまね)に参加している医療機関で受けた健診結果を閲覧する
4. 処方情報電子化サービス・・・ 医療機関の処方指示内容を電子化し、薬局のレセプトコンピューターと連携する
5. 調剤情報閲覧サービス・・・ 調剤薬局での処方実施内容を医療機関および患者自宅で閲覧する



昨年度、私は一医療機関として上記の総務省の実証事業に参加しました。
写真3は、医療機関から発行された処方箋内容が電子化情報となり、ネットを経て直接薬局のレセコンに初めて取り込まれた瞬間の「これは便利だ。すごいです」とおっしゃっている瞬間の調剤薬剤師の先生のお顔です。
決してやらせではありません。
この処方情報電子化は今回の事業の目玉の一つです。この瞬間、私はこの実証実験の成功を確信しました。
 
この経験は今後、島根県全県下での医療情報構築に生かされることを期待しています。

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(写真3)
処方箋の電子化情報をネットで
直接薬局のレセコンに取り込むことに
初めて成功した瞬間の薬局の先生