僕たちのDNAフィルハーモニック(医師 Doctor、看護師 Nurse、地元在住の芸術 Artistで構成)の演奏会も、今年で第6回を迎えます。その本番を来週に控え、練習と準備もラストスパートとなりました。

 今年の曲目は、F.シューベルト作曲 交響曲第7番「未完成」J.ブラームス作曲 ヴァイオリン協奏曲です。


■演奏者から医師へと変わる頼もしい仲間たち

 
 午前のパート練習を終え、これから合奏練習開始という直前、クラリネットのA先生は緊急帝王切開のため手術室に呼ばれていきました(写真1)。クラリネットの演奏から、医師の仕事へ変わる仕草は地域医療に携わる仲間として頼もしい。優しいA先生なら生まれてきたベビーをしっかり守ってくれるでしょう。

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写真1:練習直前に緊急帝王切開手術に呼ばれ、クラリネットを片付けるA先生

 午後の練習の一曲目は、J.ブラームス作曲 ヴァイオリン協奏曲です。一昨年、指揮者の長坂先生(内科医)のご子息がハンガリーのドナウ国際音楽コンクールのヴァイオリン部門で第2位入賞という素晴らしい実績を残されました。その地元お披露目です(写真2)。映画音楽のように様々な情景を彷彿とさせるテーマが見事に展開されていく曲です。現代人には乗り越えられないオリジナリティです。
 
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写真2:J.ブラームス作曲 ヴァイオリン協奏曲練習風景 

 僕が担当するのは木管楽器のバスーン(ファゴット、写真3)。中学1年の時から演奏していますので、かれこれ40年の演奏歴になります。写真3中央にリードが見えています。2枚のリードの楽器です。最近になってタブルリードではあるものの、主に下側のリードを鳴らすようにしたほう良く響くことがわかりました。てっきりタブルリードだから上下均等に鳴らすものだと思っていました。失われた40年です。

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写真3:バスーン(ファゴット)
 
 このクラシック音楽に技術革新はあるのかと常々思っていましたが、ありました。僕は天然の葦製のリードを使っているのですが、泌尿器科医の先輩は樹脂製のリード(写真4)をお使いでした。使わせていただくと非常に軽いレスポンスです。天然素材性より長く使えるとのことで、早速、某通販サイトへアクセスし、購入しました。気が付いたら、このサイトで体に身に着けているもののほとんどを購入していました。流通と情報文明の進歩はすさまじいですね。田舎であっても購入できないものは少なくなり、都会暮らしとのハンディはずいぶん埋められました。

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写真4:樹脂製リード
 


■「未完成」1楽章に緩和ケアを思う


 
 午後の練習の2曲目は、F.シューベルト作曲 交響曲第7番「未完成」です。

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写真5: 1楽章の最終部分について指揮者の要望を書き込んだ楽譜。「音楽が終わりに向かっている雰囲気」を表現してくださいとのこと

 学生時代から何度も演奏している曲です。通常、交響曲は4楽章で構成されますが、シューベルトが3楽章の最初までしか書かいていなかったので、このまま1、2楽章だけで「未完成」交響曲として発表されました。交響曲では3楽章は3拍子です。未完成では1楽章も2楽章も3拍子ですから、このまま3楽章も3拍子で書くのはしんどいのかもしれません。それにしても美しい曲です。 第一楽章冒頭は チェロとコントラバスの低く、そして深いテーマから始まり、オーボエとクラリネットの高い音の静かなテーマへと引き継がれていきます。
 
 指揮者の放射線科医F先生から1楽章の最終部分について、「音楽は終わりに向かっている雰囲気」を表現してくださいとのことでした。楽譜に書き込みながら、在宅医療で緩和ケアをしている僕の心に直接響きました

 「僕も患者さんも同じ人間で終わりのある命。では、癌等で終末期にある患者さんと僕は何が違うのであろうか」―。終末期とは“人生が終わりに向かっていることが明確になった”状態であるという自分の定義づけができました。そして、このフレーズを演奏しました。静かで重い人生の終焉を感じました。一方、ブラームスのヴァイオリン協奏曲は「すっと」終わります。

 練習直後に、オーボエの研修医1年目K先生も緊急内視鏡で招集されて行きました。内分泌医のN先生も電話に呼びだされ急いでお帰りでした。もちろん、僕も練習中に患者さんを看取るために中座したことがあります。

 来週の本番だけは皆、オフコールになっています(いるはずです)。このようなオーケストラ活動ですが、今年もチケットはまぁまぁの売れ行きで、当院の待合室に貼ってあるパンフレットを見て、患者さんが何人も来て下さることになっています。