今回は自宅療養の一例をご紹介します。

 ある90歳の女性です。誤嚥性肺炎を繰り返しており、心臓の大動脈が石灰化していつ突然死をしてもおかしくない状態でした。食欲も低下し、脱水のたびに近くの病院に入院していました。ご家族は自宅での看取り経験がなく、お嫁さんは退院時カンファレンスで「自然な流れで看取ってあげたいけど、痰が詰まったらどうしよう。看取れる自信がないなぁ」とおっしゃり、自宅での看取りの意思は固まっていない状況でした。そこで我々の訪問診療が開始しました。

 最初はお元気でしたので吸引の必要はなかったのですが、半年後、お嫁さんが「食べると喉に詰まるし、どうしたらいいか分からない。吸引は怖くてできません」と言われました。そのため私たち担当医が「老衰で食べられないのは自然な経過です。点滴をすると胸水や腹水で体が水浸しになって呼吸困難になることがあるので、そんなにしなくていいでしょう」というふうにやんわり老いていくことを説明しました。

 さらに、当初は訪問看護師には来てもらっていませんでしたが、「痰を吸引してもらうので応援部隊を1人増やしましょう」とお話ししたところ、訪問看護師を受け入れて下さり、看護師が吸引器を設置してご家族に説明をしてくれました。その後、息子さんが吸引できるようになり、咽頭のごろつきがある時は、息子さんが吸引するようになりました。


■「呼吸が止まったら救急車ではなく私たちに電話してください」


 訪問開始から1カ月後、お嫁さんから「ケーキや甘酒をほんの少し口にできるようになりました」との報告がありました。意識はムラがあり、食べられても少しだけのことが増えてきたとのこと。それで私たち医師は「良かったですね。意識が悪い時は無理に食べさせられなくても大丈夫。胸の動きに注意して、やがて呼吸が止まっても慌てて救急車を呼ばずに、私たちの24時間のホットラインに電話してください」と説明しました。

 お別れの時が近づいてきた頃、私は「状態は厳しく、予後は数日から数週と思われます。自宅での看取りの希望があるなら、精一杯私たちも支援します。もし、難しいようなら元の病院の先生に紹介します」とお伝えしたところ、息子さんは「ここまで来たら頑張ります」とおっしゃり、ご自宅での看取りへと気持ちが変わってきたようでした。そして、数日後の深夜、訪問看護師から呼吸停止の連絡を受け、すぐに伺ったところ、息子さん夫婦と娘さんに看取られて、永眠されました。

この症例をまとめると、
① 老衰の経過を家族へ何度も説明
② 自宅、病院どちらも選択できることを説明
③ 看取りの流れを説明

となります。

 以上を家族に繰り返し伝えることで安心感につながり、訪問看護も効果的に介入でき、最終的にご自宅での看取りを選択していただきました。

 次回はご夫妻二人暮らしの在宅医療の一例をご紹介します。