出雲の開業医「生活密着医療がモットーです」

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     地域医療 = 生活密着医療と考え、「地域の方々の生活に貢献できる医療の進化を推進する」がモットーの開業医が、診療、研究、IT事業に奮闘する日々を出雲の地から綴ります。
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    杉浦弘明(すぎうら ひろあき) 1965年生まれ。1991年島根医大卒。島根県出雲市に「すぎうら医院」を設立して15年目の開業医。日常診療の傍ら、研究・IT事業など多方面で活躍中、後世に残る英語論文にも挑戦している。

2015年12月

在宅医療開始から2年半(下)。国の今後の医療政策を検討しました。

 開業医として、安定した経営の中で医療を長く続けていくためには、早い段階で国の医療政策を読み取ることが必要です。このためには診療報酬改定につながる中央社会保険医療協議会(中医協)の資料が最もふさわしいと思います。厚労省のHPで検索できます。


■看取りを病院から在宅医療にシフトしたい強い意向


 中医協2015年10月7日資料
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000099999.pdf

 資料8頁: 「死亡の場所別にみた年次別死亡数百分率」をみますと、2006年から病院死亡数百分率が年々減り続けています。病院での看取りを減らす政策が実行されてから、顕著になっています。

 9頁:最期を迎えたい場所について「自宅」と回答された方が54.6%となっています。現実から大きくかい離した数字ではあるのですが、このデータが正式な根拠として議論されていることに重みがあります。病院での看取りを在宅医療での看取りにシフトしたい強い意向の表れだと思います。

 15頁:在宅診療を行っている実態調査の資料も大変興味深いものです。「訪問診療料算定レセプト件数別の診療所数」では、全国7万7033件の診療所のうち、訪問診療をしていない医療機関は5万5711件です。このグループには眼科の先生など往診患者さんがいない診療所も含まれています。

 1~10件訪問している医療機関は1万2213件です。これは在宅診療を1件でも行っている医療機関のうちの57.3%で、最も多いグループです。1人で診療所を経営しておられる先生が、午前と午後の診療時間の間に訪問診療をしていらっしゃる場合が大半だと思います。出雲市医師会の理事会の立場として、苦労していらっしゃるこのグループの先生方が、在宅診療を続けられやすい環境を整える必要があると思っています。

 その次に多いのが101件以上の訪問件数の医療機関です。このような医療機関は、在宅特化した診療所か、私たちのクリニックのように在宅診療の専属医師が配置されたところだと思います。

 22頁:「在宅医療に取り組む医療機関における看取り状況」を見ますと、在宅診療を行っている診療所のうち、38%では看取りがありません。年間21例以上の看取りをしている診療所もありました。このように、看取りをしないか、するなら多くの看取りをするかで診療所の在り方が二極分化しています。

 医師不足により、患者さんの自宅が点在している過疎地では、診療所の先生方は1人で外来をしながら、急変時の対応や看取るご苦労をしていらっしゃいます。地域包括ケア病棟として緊急時受け入れ態勢のある病院があると、診療所の先生方も在宅診療を行いやすくなっています
 過疎地域ではやむを得ないと思いますが、最期になって、看取りのために入院になる可能性が含まれていると思います。一方、複数の医師を整えた在宅診療所では、マンパワーを充実させ24時間365日体制を可能としているので、年間21名以上の看取りが可能となっています。23頁をみると、年間20回の在宅看取りをしている医療機関数は全体の8%ですが、この8%の医療機関で全体の51%の看取りをしています。

 24頁:総括では、在宅診療を本格的に行っている医療機関数は少ないが、看取りの大きな役割を占めているとしています。


■現状では在宅医療のあり方に2つのパターン


 在宅医療を専門に行う医療機関の中にも2つのパターンがあります。

 34頁
に見られるように、積極的に看取りを行う場合と、むしろ全く看取りが行われない場合です。治療内容に目を向けたのが35頁です。 
 これらの資料を見る限りでは、看取りを含めて緩和ケアを行う在宅診療に注目しつつ、施設にいる軽症者を中心とした在宅診療のあり方には懐疑的であると窺えました。

 その回答が11月11日の中医協で検討されています。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000103907.pdf

 16頁に、在宅医療において、長期にわたって医学管理の必要な疾患が掲載されています。これらの疾患を中心に在宅診療が進められると思います。

 20頁に「医学的に必要な回数以上に訪問を受けている患者」について検討されています。月1回の訪問で済むのに、2回以上の訪問を受けている場合があるとされています。これは 月2回の訪問が医学総合管理料の算定要件であるからです。

 50頁上段は、訪問診療の基本料金である、在宅時医学総合管理料もしくは、特定施設入居時等医学総合管理が重症度別に設定され、さらに集合住宅内の診療患者数ごとに細分化されるイメージが、下段では、訪問診療の一回ごとの料金である在宅患者訪問診療料を同一建物の訪問かどうかで区別するイメージが示されています。

 このように、複数の訪問が必要なほどの重症患者さんで居宅にいる方が最も保険点数が高くなり、軽症の方は月1回の訪問でも算定できるものの、保険点数が低く設定される方向性が見えてきました。 さらに、自宅にいる方は保険点数が高く、集合住宅で複数の患者さんを同一日に診察できる状態の場合は低くなるように見て取れます。

 これらの方向性はまだ決定されたことではないので、今後、議論や折衝が多々あることでしょう。

在宅医療開始から2年半(中)。3つのパターンが分かってきました

 私たちが関わっている、在宅医療の対象患者さんのほとんどは治らない病気です。治らないと言っても、すぐに亡くなられる方から、長い経過を辿る方までさまざまです。可能な限り在宅で看取る方針で治療をしています。

 在宅で亡くなられる多数の患者さんを経験しているうちに、3つのパターンが分かってきました。

 1つ目のパターンは、悪性腫瘍です。外来化学療法をされる時間は長いのですが、ひとたび状態が悪化すると、概ね2カ月程度で亡くなられます短期間に集中して苦しみを和らげる緩和療法が必要です。私たちのクリニックでは、積極的にモルヒネ持続皮下注射をしています。また、呼吸困難には胸水、腹水穿刺をしています。痛みのコントロールができれば、再入院されるケースはほとんどありません
図1



 2つ目は心不全、慢性呼吸不全です。 病状は徐々に進行しますが、時として急変するため、入院となるケースが多いです。入院でしかできないカテコーラミンや利尿剤の点滴で回復され、再び家庭での生活が送れるのですが、何回か入退院を繰り返しているうちに、急性腎機能不全などをきたし、病院で亡くなられる場合が多いです。

 在宅診療医としては、退院時カンファレンスの際に、「在宅でできる限りのことをしますが、再入院となるケースが多々あります」とお話しています。

 ただ、この状態でも繰り返しているうちに、急変時でも自宅でのお看取りを希望される場合があります。 このような場合は、呼吸困難に対しては気管チューブの挿管が不要なマスクタイプの人工呼吸器(非侵襲的陽圧換気NPPV)と、麻薬を投与することがあります。
図2



 3つ目の場合は 脳卒中後遺症、認知症、老衰で、長期寝たきりの後、衰えて亡くなられる場合です。要介護4か5以上の状態が長くなると、施設でのお看取りが増えます。誤嚥性肺炎予防を含めて、嚥下機能を確認した食事摂取が大切です。
図3

 
 
 掲載したJAMA. 2001 Feb 21;285(7):925-32.から改変した図は、厚労省の中央社会保険医療協議会(中医協)の資料http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000101762.pdfの39頁でも見られます。

在宅医療開始から2年半。実態を調べてみました(上)

写真1

 機能強化型在宅診療所として、他の医療機関と24時間365日連携体制を整えて、外来クリニックに複合する形で本格的に在宅医療に取り組んでから2年半が経過したので、実態を調べてみました。その内容を3回に分けてお伝えします。

 調査日の本年9月30日現在、111名の患者さんを当院3名の専任医師と1名の非常勤医師、1名の外来との併任医師で担当し、一緒に勉強しながら診療しています。
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 写真は超音波ガイドによる血管確保の練習風景です。人体の代わりとなる食用肉の中に、血管の模擬となるプラスチックを通してあります。その模擬血管をめがけて超音波を見ながら、注射針をコントロールしているのです。高齢者の方は血管が細くなっているため普通の注射針ではできないことがあるので、このような技術が必要です。


■当院利用患者の8.6%が在宅医療


 在宅医療を行っている患者さんのうち、自宅にお住まいの方は58名、サ高住などの住居型施設利用は3カ所、53名です。同月の当院の全レセプト枚数が1294枚ですので、当院を利用される患者さんのうち8.6%の方に対して在宅医療を行っています。 2年半での累積訪問診療患者数は246名、看取り合計は74名でした。およそ毎月平均では2.5名の方をお看取りしています。住民基本台帳では、出雲市の年間死亡者数は1926名です。亡くなられた方の内訳は癌患者さんか54%、非癌患者さんが46%でした。

 外来と本格的な在宅医療をミックスして運営するため、たくさん乗り越えてきたことがありますが、地元の医師として、最後の日まで患者さんを診察できる体制が作れて良かったと思っています。

 次回は、2016年度診療報酬改定の議論を行っている厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)の資料を参考にしながら、患者さんの病態について分析します。