「もうたくさん生きていても楽しいことはありません」
診察の時にいつもこのようにおっしゃる90歳を超える女性がいらっしゃいます。

これに対し、ある日は「そんなことはないですよ。一緒に長生きしましょう」、またある日は「長生きは若い方の見本なので、是非がんばってください」とお答えしていました。
本人も「はいはい」というだけで、話題は途切れ、毎回、処方箋を受け取ってお帰りになります。そして、次の来院時も同じ言葉が繰り返されます。

前回のブログでご紹介したビジネスコーチングの谷益美先生にお会いした時、会話の中の気になる部分について質問し、傾聴することにより、相手は安心して、より多くのことを物語ってくれるというテクニックを教えていただきました。そして人間は会話の一面ではなく、その背景も含めて、これまでの人生物語を大きく聞いてほしいと思っているとのこと。このテクニックを今度この女性が来たら使ってみようと、少しワクワクして待っていました。


■「どうしてそのような悲しいことを考えられるのですか?」


しばらくして女性が来院し、案の定「もう私は役に立たないし、死にたい」といつものようにおっしゃったのです。


そこで今回はゆっくり頷きながら、相手の目を見て質問してみました。
「どうしてそのような悲しいことを考えられるのですか?」と。
その時、お顔がぱっと明るくなったのがわかりました。おそらく、もっと話してもいいんだ。嬉しい! と思われたのでしょう。 

「友達もいとこも死んじゃった。それに娘がとても冷たくてつらい」
この時、この方の悩みがやっとわかりました。家族の悪口を言いたくなかったのでしょう。 
安心した環境で誰かに問われて初めて語りとして本音が出てくるのですね。「わかってもらって嬉しいわ」と言われました。 

次に来院された時、これまでと同じ会話のループがもう起こらないのか、それとも起こるのか、この先の展開に興味があります。