出雲の開業医「生活密着医療がモットーです」

  • ブログの紹介
     地域医療 = 生活密着医療と考え、「地域の方々の生活に貢献できる医療の進化を推進する」がモットーの開業医が、診療、研究、IT事業に奮闘する日々を出雲の地から綴ります。
  • 著者プロフィール
    杉浦弘明(すぎうら ひろあき) 1965年生まれ。1991年島根医大卒。島根県出雲市に「すぎうら医院」を設立して15年目の開業医。日常診療の傍ら、研究・IT事業など多方面で活躍中、後世に残る英語論文にも挑戦している。

2012年02月

スギ花粉定点観測と外来患者数

2月19日は出雲市でも久しぶりに膝下までの積雪となりました。
昨年から出雲市にある鼻高山の一本の杉で、花粉のつき方を観察しています。写真は2月23日の様子です。残雪の中に一本の杉があり、枝によっては先から3~4割程度まで花粉がついていますが、中にはほとんど花粉がついていない枝もあります。花粉はまだ固くて、指ではじいても割れません。

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クリニックの外来でも、毎年、スギ花粉の飛散前に薬を飲みたいという患者さんは来院されますが、今年はまだ花粉症の症状で来院される方はいません。


昨年の観察結果では、23日のような状態から数日後には先から根元まで花粉がつきました。そして、雄しべがふわっと柔らかくなって、つぶすと周辺が黒板消しを叩いたようになり、場所によっては黄色い煙のように漂うところがありました。
あらゆるアレルギー疾患の中でも抗原そのものが遠目でも観察できる疾患はそうないと思います。昨年は、まさにその日から花粉症の患者さんがたくさん来院されました。



花粉量と患者数はなぜパラレルではないのか

この先に疑問を感じています。一斉に花粉が飛んだあと、まだ花粉が飛んでない枝や、成熟の遅れている木から後日、残りの花粉が飛びますが、その花粉量は日によってまちまちです。これは環境省の花粉観測システム(はなこさん:http://kafun.taiki.go.jp/)でも確認できます。
しかし、患者さんの数は日に日に増えていきます。日々の花粉の飛散量と日々の患者数はパラレルではありません。花粉飛散が少ない日でもシーズン半ばでは患者さんの数は多いのです。



こうした臨床での疑問点を疫学的に解明しようと思い、現在、奈良県立医科大学大学院健康政策医学講座に在籍して4年間を終えようとしています。すばらしい指導教官とスタッフのみなさん、研究仲間に迎えていただいて、あっという間の4年間でした。
現在、教室の皆さんと、日々の花粉飛散量と患者数がノンパラレルである点について議論を交し、共同で海外投稿予定の論文を書き進めています。ここで若干の問題点があります。
それは、スギ花粉症があまりに日本国内の問題であり、海外のジャーナルに投稿されていないため、引用できる英語論文が極端に少ないということです。しかしこの点もクリアして、来年の今頃にはpublishされたらいいなと思います。



これまでの論文作成の過程で多くのスキルが身につきました。
インターネット環境のおかげで、論文検索は自宅でできます。ごく普通のパソコンで少々複雑な統計処理も行えます。文献管理もEndnote等の専用ソフトを使えばジャーナルのダウンロード、ワード内での順番の差し替えはもちろんのこと、ジャーナルの投稿規定に合わせて、ほぼ瞬時に参考文献リストの表示形式の変更まで可能です。投稿もオンラインで行います。
このブログをご覧いただいている開業医の先生方が卒後論文をお書きになられた頃とはずいぶん様子が違うと思います。
その様子を後日お知らせしたいと思います。



たばこは悪い奴だから近づくな

2005年4月から出雲医師会のたばこ対策委員会委員長をお引き受けしています。

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担当業務は、①市および県のたばこ対策会議への出席、②住民検診と禁煙指導の関連化、③あらゆるレベルでの禁煙出張講義―です。講義先は、出雲市主催の禁煙セミナー、小中学校の防煙の講義、看護学科、市民団体等でのスピーチ、2カ所の事業所で、たばこの健康被害について説明しています。

現在最も力を入れているのは、小学校高学年向けの「たばこと健康」に関する講義です。

成人を対象にした禁煙指導の経験から、すでにニコチン中毒となっている方は健康被害が目前にないと、なかなか禁煙行動ができないことを実感しています。時間をかける割にはその効果も比較的少なく、講義するほうも受けるほうも、なんともむなしい思いがしていました。それならば最初から習慣化しないほうが効果的と思い、次第に小中学校での講義に熱が入ってきました。

小中学校でのレクチャーのタイトルは「たばこは悪い奴だから近づくな」です。
最初に、このタイトルを皆で元気よく斉唱してからスタートし、パワーポイントを用いてプレゼンテーションを行います。ニコチン以外にも200種類の有害物質と43種類の発癌物質があること、1年間で多くの日本人がたばこに関連して死亡する超過死亡のことなどの総論をお話した後、発癌性、循環器疾患、呼吸器疾患、歯周病、受動喫煙による害、ニコチンによる依存性などの各論を医師としての体験を織り交ぜ、適宜質問も加えてお話します。禁煙法としてテープやガムの使用法と、父母が吸っていたら止めていただくよう優しくお話します。


■「なぜ国はたばこを販売しているの?」→「国も“たばこ病”になっちゃたんだね」


それに続き、実際にたばこを勧められたときに上手に断るためのロールプレイグをします。煙草を勧める“悪い人” 役は担任の先生です。断る人は多薦、自薦で出てもらいます。どのクラスにも元気で一役買ってくれる子供がいます。
悪い人役の先生:「たばこって気分が落ち着くし、大人になった気がするけど、一本一緒に吸わないか?」 
断る子供:「僕は病気になりたくないから吸いません」etc…
皆さん、なかなかの演技でいつも楽しいです。

最後は質疑応答の時間です。小学校ではいつまでも質問の挙手が続くのに、中学校は最初からゼロです。1歳しか違わないのに面白い現象です。

よくある質問は、「なぜ国は、たばこを売ることを許可しているの?」
最初の頃はこれに対する明確な回答を持ち合わせていませんでしたが、今では「政府もたばこ病になったんだよ。税金をもらっているし、JTは元々国の会社だし、いまでも役人が天下りしているそうだよね。国ももちろん、たばこは国民の健康に悪いと分かっているけど止められなくなっているんだよ。中毒になっちゃったんだよ」とお話しします。
 
「なぜ煙草を吸いたくなるんですか?」というストレートな質問もたくさんいただきます。ニコチンにより、当初は多幸感が出現して食欲が減少することのメカニズムを子どもたちに素直にお話しするかどうかは議論が分かれるところだと思いますが、私は「敵を知る」ためにお話しします。これらの薬理作用は当初のみで、やがて禁断症状へと移っていくことも念入りにお話しします。


■「僕のお小遣いで禁煙ガムを買えますか」


ある小学校では男の子が泣きながら訴えました「僕のお父さんとお母さんはたばこを吸うんだけど、先生の話を聞いて止めてもらわないといけないって思いました。僕のお小遣いでたばこを止めるガムを買ってあげることができますか?」。その話を聞きながら胸がとても熱くなりました。

毎回最後に「20歳になってもたばこを吸ってはいけないよ」と伝えて教室を後にします。 授業後の感想文では、医師の経験を交えた講義はその影響力が多大であるという趣旨のものを多くいただき、手応えを感じています。一人でも多くの子どもが将来にわたり喫煙が習慣化しないためには、自治体、学校、医師会など関係機関の地道で継続的な取り組みが欠かせないと感じます。