私の母校の島根大学医学部と当院は、同じ島根県出雲市にあります。約3.5Km離れています。

当院では、医学部5年生のポリクリ学生さんの診療所実地研修を行っており、小児の問診と診察、胸部X線の読影、模擬患者さんで超音波のハンズオン実習をしています。診療所ではリアルタイムで患者さんの病態を把握できる超音波装置を多用しますから、その有用性を理解していただき、たとえ一人の学生さんでも、将来の記憶に残る実習になればと思っています。

写真は、学生さんに説明しているところです。私自身が研修医時代に指導医の先生に手取り足取り教えていただいたのを思い出しながら行っています。

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■外来症候群サーベイランスで呼吸器症状の急増を把握

さて今回は、初秋に流行した感染症についてです。

実は、私たちの出雲市ではユニークな感染症監視をしています。
島根大学医学部附属病院、島根県立中央病院、8カ所の診療所(内科、小児科)の電子カルテから、患者さんの来院時の症状を調査し、「熱」「呼吸器症状」「下痢」「嘔吐」「発疹」「痙攣」の日々の変動を調べています(外来症候群サーベイランス)。 これは国立感染症研究所の大日班研究事業の一環です。

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過去のベースラインより患者数が異常に増加した場合、その医療機関にアラートサインがでます。
各医療機関の持ち点を10ポイントとして、医療機関の異常の一致度を計算します。もし10医療機関すべてで「アラートあり」となった場合、100ポイントが出るようになっています。その結果が グラフの「地域的流行の探知」です。この1年分を振り返ったものです。
9月初めから、アラートの赤印がたくさん見られます。何らかの呼吸器症状を持つ患者さんが複数の医療機関に、過去同時期よりもたくさん来院されました。この様子はリアルタイムにわかります。

当院でも昨秋、マイコプラズマ肺炎が大変流行し、例年以上に重症例もありました。
また、マクロライドやアジスロマイシン耐性だったのでしょうか、長期化した患者さんも多数いらっしゃいました。乳児では秋にもかかわらず、RSウイルス迅速検査陽性の方がいらっしゃいました。

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■原因菌を特定せずに「感冒」とした例が多かった

サーベイランスの状況と当院での流行状況について、日頃からお付き合いのある国立感染症研究所の大日康史先生に10月初めに相談しました。
 
国立感染症研究所は全国の調剤薬局の処方薬の動向を毎日監視しておられますが、0月初めから感冒薬の処方が急増していることに注目されていました。そこで、これらのサーベイランスで探知された感染症は何か、同研究所の藤本嗣人先生に相談したところ、患者さんの同意を得てベッドサイド診断の一環として実施しているキット残液があれば、検査が可能かもしれないということでした。
幸い、アデノウイルスの迅速診断をしたキット残液が確保できていたため、ウイルスとマイコプラズマ肺炎の多項目呼吸器ウイルスPCRを用いて検索をしていただくことになりました。藤本先生は大日先生の厚生労働科学研究での知り合いであり、病原体の診断を専門としていることからスムースに検査を実施することができました。
  
2011年10月4日~10月28日に当院に来院した呼吸器症状または有熱者のうち、呼吸器系の感染症が疑われた方を対象として病原体検査をしました。対象は50名で、その年齢層は1歳未満乳児2名(男性1名、女1名)、1歳以上7歳未満の幼児25名(男性12名、女13名) 、7歳以上13歳未満の小学生10名(男性6名、女4名) 、13歳以上の未成年4名(男性2名、女2名) 、成人8名(男性3名 女5名) 、詳細不詳1名です。
 
単独感染で検出された病原体は、年齢層別の病原体別グラフに示すとおり、ライノウイルスが12人、パラインフルエンザ1型が3人、エンテロウイルスが4人、マイコプラズマ肺炎球菌が2人、RSウイルスA型が2人、RSウイルスB型が1人でした。
重複感染で検出された病原体は、パラインフルエンザ1型とライノウイルスが1人、RSウイルスとライノウイルスが1人、RSウイルスA型、RSウイルスB型とライノウイルスが1名でした。非検出されなかったのは23人でした。

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乳幼児では多い順に、ライノウイルスと今年に限り秋に流行したRSウイルス、エンテロウイルス、パラインフルエンザでした。小学生以上はマイコプラズマ肺炎が原因だったと思います。実に多くの種類のウイルスが流行していました。 

RSウィルスは迅速診断で診断可能です。しかし、イノウイルス、エンテロウイルス、パラインフルエンザと、原因菌まで考慮せずに「感冒」として治療している症例が多いことを改めて知りました。またマイコプラズマは乳幼児で検出されませんでした。これは、マイコプラズマ肺炎は5歳まで一度感染はするものの無症状のことが多く、その後免疫が維持されずに、5歳以降の再感染時に肺炎として顕性化するといわれていることに近いものだと思いました。



■鼻汁や咽頭ぬぐい液で診断できるマイコプラズマ肺炎の迅速診断キットが欲しい

マイコプラズマ肺炎については当院では迅速診断キットは導入していませんので、外注の抗体検査と寒冷凝集素を依頼することがありますが、小児に対する血液検査はよほどでないと実施していません。今後、鼻汁や咽頭ぬぐい液で診断できる利便性の高い迅速診断キットがあればいいなと思いました。

今回の病原体診断を通して、20年前医師になりたての頃、インフルエンザウイルスは臨床診断しかできず勘に頼って治療をしていたのが、やがて開発された迅速診断キットにより正しく診断できるようになった、あの、すがすがしさを思い出しました。
これまで私は、患者さんや住民の症状を調査して感染症の広がりを把握する研究をしていました。そして今回、その研究と実際の検体による病原体調査をリンクすることができ、とても有意義な経験でした。今後は症状と性、年齢、季節から、患者さんの病原体が類推できる方策を統計学的に考えたいと思います。

(謝辞:国立感染症研究所 大日康史、藤本嗣人両先生のご指導・ご協力に大変感謝いたします)