出雲の開業医「生活密着医療がモットーです」

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     地域医療 = 生活密着医療と考え、「地域の方々の生活に貢献できる医療の進化を推進する」がモットーの開業医が、診療、研究、IT事業に奮闘する日々を出雲の地から綴ります。
  • 著者プロフィール
    杉浦弘明(すぎうら ひろあき) 1965年生まれ。1991年島根医大卒。島根県出雲市に「すぎうら医院」を設立して15年目の開業医。日常診療の傍ら、研究・IT事業など多方面で活躍中、後世に残る英語論文にも挑戦している。

2011年11月

感染症症候群サーベイランスと薬局との連携を発展させています (その2)

我が家の小さな庭につわぶきの花が咲きました。

 地面にある厚い大きな葉の間から、すっと茎が伸び、その先に黄色い花が集まり小ぶりのボールのようになっています。きれいです。
 つわぶきは島根県にとって大切な花です。医師である文豪・森鴎外の出身地である津和野町は島根県の西部にありますが、その地名の由来は「つわぶきの生い茂る野」だそうです。
 個別の花が集合体として一つの造形となる様子は、私が思い描いている多施設同士をリンクする医療ネットワークのイメージと重ります。

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 さて、今回のテーマは前回からの続きで、出雲で実施している「症候群サーベイランス」についてです。

 私たち出雲医師会は、国立感染症研究所感染症情報センターの症候群サーベイランスの開発に参加させていただきました。



 1つは、2006年に医療機関の電子カルテから抽出された患者数に基づく、「外来症候群サーベイランス」です。

 これは電子カルテが導入されている10医療機関の外来受診患者の症状の増減を調査するシステムです。
 例えば、発熱患者の急増が複数の医療機関で認められた場合は、インフルエンザの流行を早めに警戒することができます。地域医療のために電子カルテの二次利用を行う画期的な取り組みに参加させていただきました。



 2つ目は、2007年の「学校欠席者サーベイランス」の開発です。

 毎朝、各学校の養護教諭の先生方に、欠席児童、生徒を症状別に分類し入力していただいています。その結果を学校医、教育委員会、保健所で相互参照し、学校保健、地域医療に役立てる仕組みです。データは学校医の先生には担当される学校の欠席状況がご覧いただけるようになっています。
 学校内での感染症流行を把握することにより、医療機関を訪れる一人一人の患児に的確な診断が下され、早期の回復につながることを期待しています。

 当初は出雲市内のたった3つの学校で開始した事業ですが、現在では全国の1万5000校で運用されています(2011年10月1日現在)。
 当時、全く実績のない試みに対して、いろいろとご心配された学校の先生、教育委員会の担当の方のご理解をいただいて、スタートしたことがとても懐かしい思い出です。

 はじめの頃はドキドキしたこともありますが、その時めげずにとったアクションがここまで来たかと感慨無量です。



 この他、救急車の出動理由を患者の症状別に統計処理を行う「救急車搬送サーベイランス」も同センターで開発され、出雲消防署において全国で最初に運用されています。

 消防署では患者搬送を終了後に患者情報がシステム入力されます。このデータを用いて個人情報を省いて症状者数がモニターされます。救急車を利用する重症患者の動向を把握できるサーベイランスです。新型インフルエンザが流行した時には、重症肺炎患者による「呼吸困難」症例や、脳症による「けいれん」症例の急増の調査に役立ちました。



 さらに、同センターは「薬局サーベイランス」を開発しています。

 このサーベイランスは調剤薬局で特定の薬品の日々の処方箋発行数の増減を調査することにより、特定の感染症の流行を類推するものです。
 例えばタミフル、リレンザ、イナビルといった抗インフルエンザ薬の動向を調査することによりインフルエンザの流行状況が把握できます。しかし、出雲地区ではこれまで数件の薬局に導入されているだけでした。



 これらの症候群サーベイランスを同時に実施すると、それぞれの特徴や欠点を補完してより有効な調査が可能になると思います。
 私や出雲保健所の担当者は毎日チェックして予期せぬ感染症のアウトブレイクがないか注意を払っています。



 次回のブログでは、感染症症候群サーベイランスの具体的な成果と医療連携についてご紹介します。

感染症症候群サーベイランスと薬局との連携を発展させています (その1)

私には母校といえる医学部が3つあります。
 一つ目は、学生時代の島根医科大学(現島根大学医学部)。二つ目は、研修医時代の大阪医科大学。三つ目は、現在大学院生として所属している奈良県立医科大学。
すべての大学が私のキャリア形成でとても重要です。

 去る10月15日に母校の島根大学医学部の学園祭(くえびこ祭)の特別講演の講師として、国境なき医師団日本副会長である加藤寛幸先生がみえたので拝聴してきました。加藤先生は私より一つ後輩になります。最も援助の届かない国にいる、命の危機に直面している人々のために職業を通じて国際奉仕を実践していらっしゃる様子に感動しました。
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 さて、今回は昨年10月に総務省が公募した「絆プロジェクト」(正式名称:地域雇用創造ICT絆プロジェクト)における出雲医師会の経験を紹介します。

 「絆プロジェクト」に対して当地区は医薬連携と感染症症候群サーベイランスに関するプロジェクトで採択されました。大急ぎでしたが、今年3月で開発と実装を終え、今後4年間の運用を開始し半年がたちました。

 実施主体は出雲医師会のIT関連のメンバーから構成される「NPO法人全国地域感染症早期探知システム普及協会」で、私はプロジェクトリーダーを任されました。このNPO法人は、国立感染症情報センター(以下、感染研)の大日康史先生のご指導により出雲地域で独自に発展してきた感染症症候群サーベイランスを全国的に普及させることと、住民向けの感染症情報の発信を行うために昨年設立されたものです。

 ここで、馴染みがない方もいらっしゃると思いますので、感染症症候群サーベイランスについてご説明します。

 内科や小児科の診療に携わる先生方でしたら、感染症定点の医療機関から報告されたものを各県の感染症情報センターが取りまとめて発表する発生動向調査をHPでご覧になる方は多いかと存じます。地域の流行状況、例年との比較がグラフで表示されており、地域の感染症対策にはとても重要な情報です。例として島根県のHPを示します。
http://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/kansen/

 でも、感染症定点での診断から公表まで最短でも10日かかるため、タイムラグが気になることがあります。特にインフルエンザなど「足の速い」流行性疾患の場合はなおさらです。また SARSの流行当初のように病名が分からない時もこの調査ではとらえきれない疾患があると思います。

 人々の往来が地球規模で活発な現代では、常に新しい感染症にいち早く対応しなければならない状況が増しています。そこで確定診断にかかわらず、いち早く感染症流行の兆しをキャッチするシステムが、国立感染症研究所の大日康史先生を中心に開発されています。医療機関内外や患者の症状の有無を問わず、地域の住民の方の健康情報を主としてインターネットを用いて収集する仕組みです。

 この感染症症候群サーベイランスでは、発熱嘔気下痢発疹といった症状を訴える患者数の増減をみたり、あるいは 学校欠席者を症状別に調査したりします。患者情報が得られるものであれば、施設は限定しません。できる限り情報源のデータを二次利用して、なるべく自動的に運用されることが理想的です。