出雲の開業医「生活密着医療がモットーです」

  • ブログの紹介
     地域医療 = 生活密着医療と考え、「地域の方々の生活に貢献できる医療の進化を推進する」がモットーの開業医が、診療、研究、IT事業に奮闘する日々を出雲の地から綴ります。
  • 著者プロフィール
    杉浦弘明(すぎうら ひろあき) 1965年生まれ。1991年島根医大卒。島根県出雲市に「すぎうら医院」を設立して15年目の開業医。日常診療の傍ら、研究・IT事業など多方面で活躍中、後世に残る英語論文にも挑戦している。

地域包括ケアと医師・看護師・地元芸術家からなるオーケストラ活動

無題1
(アントニン・ドヴォルザーク 交響曲第9番 ホ短調 作品95『新世界より』
第一バイオリン冒頭部  指揮者用スコアの表紙)


無題2
ファゴット(バスーン)の自撮り


 私たちのオーケストラ、「DNAフィルハーモニック」は島根大学医学部出雲キャンパスの「シュールカメラート管弦楽団」の OB・OGを母体とした医師(Doctor)看護師(Nurse) 及び地元在住の芸術家(Artist)で結成されています。僕は団長をしています。

 第5回となる次回の演奏会は、医療関係者が企画、運営、実行を行うオーケストラならではのアイデンティティーにより、音楽を通じて地域の医療、介護、福祉分野で地域包括ケアに彩を添えたいと思います。そこで、普段は家や施設に閉じこもりがちの高齢者、障がいのある方にたくさん来ていただけるようなプログラムにしました。

 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲 フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 Kv.299は、美しいフルートのソロを開業医の手納信一先生が担当します。そして、アントニン・ドヴォルザーク作曲 交響曲第9番 ホ短調 作品95『新世界より』第二楽章は「遠き山に日は落ちて」として子供の時から聞いてきた親しみやすい曲です。指揮はともに医師の福庭栄治先生、長坂行博先生です。

 このように、聞き覚えのある曲のプログラムですから、オーケストラの演奏会に縁遠かった方でも気軽にお越しいただけることでしょう。


■演奏会の外出がリハ目的になることに期待


 11月27日(日曜日)に開催予定の次回演奏会を今からご家庭のカレンダーに大きな丸印を付けていただき、いつもと違う日曜日を楽しんでいただきたいと思います。リハビリ中の方であれば、演奏会の外出がリハ目的になることも願っています。当日は、お知り合いや家族や施設の方と連れ立ってお越しいただくことにより、コミュニケーションの向上につながるといいですね。なにより、楽曲の持つ芸術性を楽しんでいただけると思います


■学生時代の憧れの曲


 残りの一曲はジュゼッペ・ヴェルディ作曲 『運命の力』序曲です。僕の中学時代の思い出の曲です。もし、このブログの読者の方が私のようにブラスバンド経験者であれば、吹奏楽コンクールの自由曲として一年中練習したご経験や、ライバル校の演奏を聴いて熱い思いをした方もあるでしょう。

 僕は出雲市立第一中学校という50年間いまだに全国大会常連校のOBです。先日、母校に長男が入学しました。体育館の2階奥からアリーナに鳴り響くブラスバンドの響きは、合唱部の2階観客席から降り注ぐ天使の声と相まって、驚きに値する荘厳なものでした。

 現役時のライバル校は、お隣の出雲市立第二中学校でした。ともに全国大会で金賞を受賞したのですが、ライバルの第二中学校の自由曲がこの「ジュゼッペ・ヴェルディ『運命の力』序曲」で、島根県大会、中国大会、全国大会と毎回美しい音色を奏でており、いつかは自分で演奏したい憧れの曲となったのです。

(参考)
以下に第1回から4回までの DNAフィルハーモニーのプログラムをご紹介します。

平成24年11月24日(土曜日)  第1回演奏会
出雲市民会館大ホール
セルゲイ・ラフマニノフ 「ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18」
アントニン・ドヴォルザーク 「交響曲第8番ト長調作品88」
指揮 長坂行博、喜久里誼
ピアノ独奏 林朋之(医師:島根大学医学部OB)

平成25年12月22日(土曜日) 第2回演奏会
大田市民会館大ホール
ルロイ・アンダーソン 「ブルータンゴ」 「タイプライター」
ルードヴイッヒ・V・ベートベン 「交響曲第7番 イ長調 作品 92」 より第1楽章
ピョートルトル・I・チャイコフスキー 「バイオリン協奏曲 ニ長調 作品35」
ルードヴイッヒ・V・ベートベン 「交響曲第5番 ハ短調 作品67 「運命」
指揮 長坂行博
バイオリン独奏 長坂拓己


平成26年11月29日(土曜日) 第3回演奏会
出雲市民会館大ホール
ウェーバー 歌劇「魔弾の射手」より序曲
池辺晋一郎 ファゴットとオーケストラのための協奏曲「炎の資格」
ヨハネス・ブラームス 交響曲第1番 ハ短調
指揮:長坂行博氏
ファゴット独奏 木村恵理

平成27年11月22日(日曜日) 第4回演奏会
大田市民会館大ホール
ルードヴイッヒ・V・ベートベン 序曲 「エグモント」 作品84
マックス?ブルッフ バイオリン協奏曲 第1番 ト長調 作品26
ルードヴイッヒ・V・ベートベン 交響曲第3番 変ホ長調 作品55 「英雄」
指揮 福庭栄治、長坂行博
バイオリン独奏 長坂拓己

地域包括ケアと在宅医療③―自宅での看取り意思が固まっていなかった一例

 今回は自宅療養の一例をご紹介します。

 ある90歳の女性です。誤嚥性肺炎を繰り返しており、心臓の大動脈が石灰化していつ突然死をしてもおかしくない状態でした。食欲も低下し、脱水のたびに近くの病院に入院していました。ご家族は自宅での看取り経験がなく、お嫁さんは退院時カンファレンスで「自然な流れで看取ってあげたいけど、痰が詰まったらどうしよう。看取れる自信がないなぁ」とおっしゃり、自宅での看取りの意思は固まっていない状況でした。そこで我々の訪問診療が開始しました。

 最初はお元気でしたので吸引の必要はなかったのですが、半年後、お嫁さんが「食べると喉に詰まるし、どうしたらいいか分からない。吸引は怖くてできません」と言われました。そのため私たち担当医が「老衰で食べられないのは自然な経過です。点滴をすると胸水や腹水で体が水浸しになって呼吸困難になることがあるので、そんなにしなくていいでしょう」というふうにやんわり老いていくことを説明しました。

 さらに、当初は訪問看護師には来てもらっていませんでしたが、「痰を吸引してもらうので応援部隊を1人増やしましょう」とお話ししたところ、訪問看護師を受け入れて下さり、看護師が吸引器を設置してご家族に説明をしてくれました。その後、息子さんが吸引できるようになり、咽頭のごろつきがある時は、息子さんが吸引するようになりました。


■「呼吸が止まったら救急車ではなく私たちに電話してください」


 訪問開始から1カ月後、お嫁さんから「ケーキや甘酒をほんの少し口にできるようになりました」との報告がありました。意識はムラがあり、食べられても少しだけのことが増えてきたとのこと。それで私たち医師は「良かったですね。意識が悪い時は無理に食べさせられなくても大丈夫。胸の動きに注意して、やがて呼吸が止まっても慌てて救急車を呼ばずに、私たちの24時間のホットラインに電話してください」と説明しました。

 お別れの時が近づいてきた頃、私は「状態は厳しく、予後は数日から数週と思われます。自宅での看取りの希望があるなら、精一杯私たちも支援します。もし、難しいようなら元の病院の先生に紹介します」とお伝えしたところ、息子さんは「ここまで来たら頑張ります」とおっしゃり、ご自宅での看取りへと気持ちが変わってきたようでした。そして、数日後の深夜、訪問看護師から呼吸停止の連絡を受け、すぐに伺ったところ、息子さん夫婦と娘さんに看取られて、永眠されました。

この症例をまとめると、
① 老衰の経過を家族へ何度も説明
② 自宅、病院どちらも選択できることを説明
③ 看取りの流れを説明

となります。

 以上を家族に繰り返し伝えることで安心感につながり、訪問看護も効果的に介入でき、最終的にご自宅での看取りを選択していただきました。

 次回はご夫妻二人暮らしの在宅医療の一例をご紹介します。

地域包括ケアと在宅医療②―理想的な在宅医療の場所は

 病院では看護師さんやスタッフが対応していた患者さんの食事やお風呂、排泄、車椅子での移動などを、自宅療養では家族が行うことになります。そのため、ケアマネさん、ヘルパーさん、看護師、医師が加わり、医療と療養の結びつけをしなければなりません。

 私たちのクリニックが在宅医療を行っている地域は、街中の民家のほか、日本海の漁村もあります(写真)。 当クリニックの在宅医療の訪問先は自宅と施設が半々ですが、外に働きに出ていない家族がいるなどの恵まれた家族構成でないと、なかなか本格的な自宅介護はできません
漁村


 国が進めている居宅系施設は、サービス付き高齢者住宅(サ高住)と介護付き有料老人ホームがあります。両者の違いは、サ高住には見守りまでのサービスの人しかおらず、あとは介護保険を利用して外部の看護師さんやヘルパーさんが対応します。一方、介護付き有料老人ホームは内部に看護師さんが配置されています。料金は若干老人ホームのほうが安いです。

 私たちが訪問しているサ高住は、写真のような内装です。部屋ごとにトイレが付いており、お風呂は共同で、車椅子の方用の大型の入浴機もあります。
サ高住


 入居者の方々が共に暮らすなかで、最初は孤立していても徐々に仲良くなっていくようです。しかし、元気に歩いている方は半分ほどで、ベッドで休んでいる方も多く、休んでいる方は中心静脈栄養や在宅酸素療法などの医療を受けています。

 理想的な在宅医療の場所、介護力を考えると、私は患者さんが住み慣れた自宅で家族と共に過ごすことが一番良いと思っています。しかし、そのためには介護力が必要ですので、次善策としては、サ高住に入居していただき、集約的に介護・看護・医療資源を投入するのがよいと思います。

 なお、前回ブログでお伝えした「自宅療養の一例」は、次回ご紹介いたします。