出雲の開業医「生活密着医療がモットーです」

  • ブログの紹介
     地域医療 = 生活密着医療と考え、「地域の方々の生活に貢献できる医療の進化を推進する」がモットーの開業医が、診療、研究、IT事業に奮闘する日々を出雲の地から綴ります。
  • 著者プロフィール
    杉浦弘明(すぎうら ひろあき) 1965年生まれ。1991年島根医大卒。島根県出雲市に「すぎうら医院」を設立して15年目の開業医。日常診療の傍ら、研究・IT事業など多方面で活躍中、後世に残る英語論文にも挑戦している。

たばこは悪い奴だから近づくな

2005年4月から出雲医師会のたばこ対策委員会委員長をお引き受けしています。

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担当業務は、①市および県のたばこ対策会議への出席、②住民検診と禁煙指導の関連化、③あらゆるレベルでの禁煙出張講義―です。講義先は、出雲市主催の禁煙セミナー、小中学校の防煙の講義、看護学科、市民団体等でのスピーチ、2カ所の事業所で、たばこの健康被害について説明しています。

現在最も力を入れているのは、小学校高学年向けの「たばこと健康」に関する講義です。

成人を対象にした禁煙指導の経験から、すでにニコチン中毒となっている方は健康被害が目前にないと、なかなか禁煙行動ができないことを実感しています。時間をかける割にはその効果も比較的少なく、講義するほうも受けるほうも、なんともむなしい思いがしていました。それならば最初から習慣化しないほうが効果的と思い、次第に小中学校での講義に熱が入ってきました。

小中学校でのレクチャーのタイトルは「たばこは悪い奴だから近づくな」です。
最初に、このタイトルを皆で元気よく斉唱してからスタートし、パワーポイントを用いてプレゼンテーションを行います。ニコチン以外にも200種類の有害物質と43種類の発癌物質があること、1年間で多くの日本人がたばこに関連して死亡する超過死亡のことなどの総論をお話した後、発癌性、循環器疾患、呼吸器疾患、歯周病、受動喫煙による害、ニコチンによる依存性などの各論を医師としての体験を織り交ぜ、適宜質問も加えてお話します。禁煙法としてテープやガムの使用法と、父母が吸っていたら止めていただくよう優しくお話します。


■「なぜ国はたばこを販売しているの?」→「国も“たばこ病”になっちゃたんだね」


それに続き、実際にたばこを勧められたときに上手に断るためのロールプレイグをします。煙草を勧める“悪い人” 役は担任の先生です。断る人は多薦、自薦で出てもらいます。どのクラスにも元気で一役買ってくれる子供がいます。
悪い人役の先生:「たばこって気分が落ち着くし、大人になった気がするけど、一本一緒に吸わないか?」 
断る子供:「僕は病気になりたくないから吸いません」etc…
皆さん、なかなかの演技でいつも楽しいです。

最後は質疑応答の時間です。小学校ではいつまでも質問の挙手が続くのに、中学校は最初からゼロです。1歳しか違わないのに面白い現象です。

よくある質問は、「なぜ国は、たばこを売ることを許可しているの?」
最初の頃はこれに対する明確な回答を持ち合わせていませんでしたが、今では「政府もたばこ病になったんだよ。税金をもらっているし、JTは元々国の会社だし、いまでも役人が天下りしているそうだよね。国ももちろん、たばこは国民の健康に悪いと分かっているけど止められなくなっているんだよ。中毒になっちゃったんだよ」とお話しします。
 
「なぜ煙草を吸いたくなるんですか?」というストレートな質問もたくさんいただきます。ニコチンにより、当初は多幸感が出現して食欲が減少することのメカニズムを子どもたちに素直にお話しするかどうかは議論が分かれるところだと思いますが、私は「敵を知る」ためにお話しします。これらの薬理作用は当初のみで、やがて禁断症状へと移っていくことも念入りにお話しします。


■「僕のお小遣いで禁煙ガムを買えますか」


ある小学校では男の子が泣きながら訴えました「僕のお父さんとお母さんはたばこを吸うんだけど、先生の話を聞いて止めてもらわないといけないって思いました。僕のお小遣いでたばこを止めるガムを買ってあげることができますか?」。その話を聞きながら胸がとても熱くなりました。

毎回最後に「20歳になってもたばこを吸ってはいけないよ」と伝えて教室を後にします。 授業後の感想文では、医師の経験を交えた講義はその影響力が多大であるという趣旨のものを多くいただき、手応えを感じています。一人でも多くの子どもが将来にわたり喫煙が習慣化しないためには、自治体、学校、医師会など関係機関の地道で継続的な取り組みが欠かせないと感じます。

初秋に流行した感染症の病原体検査を実施しました

私の母校の島根大学医学部と当院は、同じ島根県出雲市にあります。約3.5Km離れています。

当院では、医学部5年生のポリクリ学生さんの診療所実地研修を行っており、小児の問診と診察、胸部X線の読影、模擬患者さんで超音波のハンズオン実習をしています。診療所ではリアルタイムで患者さんの病態を把握できる超音波装置を多用しますから、その有用性を理解していただき、たとえ一人の学生さんでも、将来の記憶に残る実習になればと思っています。

写真は、学生さんに説明しているところです。私自身が研修医時代に指導医の先生に手取り足取り教えていただいたのを思い出しながら行っています。

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■外来症候群サーベイランスで呼吸器症状の急増を把握

さて今回は、初秋に流行した感染症についてです。

実は、私たちの出雲市ではユニークな感染症監視をしています。
島根大学医学部附属病院、島根県立中央病院、8カ所の診療所(内科、小児科)の電子カルテから、患者さんの来院時の症状を調査し、「熱」「呼吸器症状」「下痢」「嘔吐」「発疹」「痙攣」の日々の変動を調べています(外来症候群サーベイランス)。 これは国立感染症研究所の大日班研究事業の一環です。

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過去のベースラインより患者数が異常に増加した場合、その医療機関にアラートサインがでます。
各医療機関の持ち点を10ポイントとして、医療機関の異常の一致度を計算します。もし10医療機関すべてで「アラートあり」となった場合、100ポイントが出るようになっています。その結果が グラフの「地域的流行の探知」です。この1年分を振り返ったものです。
9月初めから、アラートの赤印がたくさん見られます。何らかの呼吸器症状を持つ患者さんが複数の医療機関に、過去同時期よりもたくさん来院されました。この様子はリアルタイムにわかります。

当院でも昨秋、マイコプラズマ肺炎が大変流行し、例年以上に重症例もありました。
また、マクロライドやアジスロマイシン耐性だったのでしょうか、長期化した患者さんも多数いらっしゃいました。乳児では秋にもかかわらず、RSウイルス迅速検査陽性の方がいらっしゃいました。

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■原因菌を特定せずに「感冒」とした例が多かった

サーベイランスの状況と当院での流行状況について、日頃からお付き合いのある国立感染症研究所の大日康史先生に10月初めに相談しました。
 
国立感染症研究所は全国の調剤薬局の処方薬の動向を毎日監視しておられますが、0月初めから感冒薬の処方が急増していることに注目されていました。そこで、これらのサーベイランスで探知された感染症は何か、同研究所の藤本嗣人先生に相談したところ、患者さんの同意を得てベッドサイド診断の一環として実施しているキット残液があれば、検査が可能かもしれないということでした。
幸い、アデノウイルスの迅速診断をしたキット残液が確保できていたため、ウイルスとマイコプラズマ肺炎の多項目呼吸器ウイルスPCRを用いて検索をしていただくことになりました。藤本先生は大日先生の厚生労働科学研究での知り合いであり、病原体の診断を専門としていることからスムースに検査を実施することができました。
  
2011年10月4日~10月28日に当院に来院した呼吸器症状または有熱者のうち、呼吸器系の感染症が疑われた方を対象として病原体検査をしました。対象は50名で、その年齢層は1歳未満乳児2名(男性1名、女1名)、1歳以上7歳未満の幼児25名(男性12名、女13名) 、7歳以上13歳未満の小学生10名(男性6名、女4名) 、13歳以上の未成年4名(男性2名、女2名) 、成人8名(男性3名 女5名) 、詳細不詳1名です。
 
単独感染で検出された病原体は、年齢層別の病原体別グラフに示すとおり、ライノウイルスが12人、パラインフルエンザ1型が3人、エンテロウイルスが4人、マイコプラズマ肺炎球菌が2人、RSウイルスA型が2人、RSウイルスB型が1人でした。
重複感染で検出された病原体は、パラインフルエンザ1型とライノウイルスが1人、RSウイルスとライノウイルスが1人、RSウイルスA型、RSウイルスB型とライノウイルスが1名でした。非検出されなかったのは23人でした。

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乳幼児では多い順に、ライノウイルスと今年に限り秋に流行したRSウイルス、エンテロウイルス、パラインフルエンザでした。小学生以上はマイコプラズマ肺炎が原因だったと思います。実に多くの種類のウイルスが流行していました。 

RSウィルスは迅速診断で診断可能です。しかし、イノウイルス、エンテロウイルス、パラインフルエンザと、原因菌まで考慮せずに「感冒」として治療している症例が多いことを改めて知りました。またマイコプラズマは乳幼児で検出されませんでした。これは、マイコプラズマ肺炎は5歳まで一度感染はするものの無症状のことが多く、その後免疫が維持されずに、5歳以降の再感染時に肺炎として顕性化するといわれていることに近いものだと思いました。



■鼻汁や咽頭ぬぐい液で診断できるマイコプラズマ肺炎の迅速診断キットが欲しい

マイコプラズマ肺炎については当院では迅速診断キットは導入していませんので、外注の抗体検査と寒冷凝集素を依頼することがありますが、小児に対する血液検査はよほどでないと実施していません。今後、鼻汁や咽頭ぬぐい液で診断できる利便性の高い迅速診断キットがあればいいなと思いました。

今回の病原体診断を通して、20年前医師になりたての頃、インフルエンザウイルスは臨床診断しかできず勘に頼って治療をしていたのが、やがて開発された迅速診断キットにより正しく診断できるようになった、あの、すがすがしさを思い出しました。
これまで私は、患者さんや住民の症状を調査して感染症の広がりを把握する研究をしていました。そして今回、その研究と実際の検体による病原体調査をリンクすることができ、とても有意義な経験でした。今後は症状と性、年齢、季節から、患者さんの病原体が類推できる方策を統計学的に考えたいと思います。

(謝辞:国立感染症研究所 大日康史、藤本嗣人両先生のご指導・ご協力に大変感謝いたします)


感染症症候群サーベイランスと薬局との連携を発展させています (その3)


 開院以来、15年間使用していたレントゲンをデジタルレントゲンシステムにリプレースしました。
 購入した一般撮影装置の工場は地元・出雲市にあります。うれしいことに、中学時代の同級生・遠藤君が担当として作ってくれました。とても愛着があります。

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 写真は当院へ出荷時の遠藤君です。
 この工場は単なる組立工場ではなく、筐体の作成、レントゲン管球まですべて作っています。













 (1)大学、県立病院、医師会、自治体、そして薬剤師会が「地域医療IT」を検討

 さて、今回は感染症症候群サーベイランスの具体的な成果と医療連携についてご紹介します。
 
 島根大学医学部、島根県立中央病院、出雲医師会、出雲市は2009年に厚生労働省の社会保障カード実証事業に参加しました。
 その時、結成されたコンソーシアムに新たに薬剤師会にもご参加いただき、今後の患者さんのためになる地域医療ITの取り組みの検討会を定期的に開催しています。

 図に示しますように、縦軸は「開発・実証実験か、実運用であるか」の視点、横軸は「地域医療連携としてのEHR(Electronic Health Record)か、個人が医療記録を閲覧利用するPHR (Personal Health Record)であるか」の視点に分けて議論しています。

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 夢を含めて将来構想を掲げ、可能なものから実証実験を行い、有効性が確認されたら実運用へとつなげています。

 今、出雲において「EHR」として運用中のシステムは、紹介状システム電子カルテ情報の提供などの基本的なものと、島根県全域運用ではASP型特定健診システムレセプト電算化オンライン化システムです。
 これらのシステムはすべて私どもで開発してきたもので、パッケージ商品を購入して運用しているものは(今のところ)ありません。

 これまでトライアルとして行った「PHR」は厚生労働省の社会保障カード実証事業です。
 また、医療情報の2次的な利用方法として、前回のブログで紹介した外来症候群サーベイランスなど新しい試みも実施しています。


 (2)地域の感染症情報をCATVのデータ放送で毎日住民に情報提供

 ワーキンググループで次の目標を「医薬連携」の実施と決めていたところ、前回のブログでご紹介した総務省の地域雇用創造ICT絆プロジェクトが昨年10月13日から公募を行いました。
 これは公共サービス、地場産業でICTを利活用し、地域の課題の解決を実現するとともに地域の雇用創出を目的としたものです。


 私たちは、憂慮すべき感染症の早期発見を行い、住民への注意喚起を呼びかけるシステム作りでプロジェクトに応募しました。
 調剤薬局にシステムを導入して「薬局サーベイランス」を行い、その結果を含めた地域の感染症情報をCATVのデータ放送で毎日住民に情報提供するものです(感染症情報告知システム)。

 さらに、調剤薬局に導入した同じPCを用いて、双方向性の医薬情報連携も構築しました。
 医療機関から薬局へはカルテ内容を、薬局から医療機関へは調剤情報を提示します。これにはジェネリック医薬品への変更情報も含まれています。


 公募が発表されてから 大急ぎで企画を取りまとめて、4医療機関・7調剤薬局での実施計画を立て、昨年11月4日に総務省に提出したところ、12月初旬に採択の通知をいただきました。

 しかし、喜んでいたのも束の間、3月31日までの約100日間で、すべて開発し、運用して報告しなければならないので、とてもハードなスケジュールとなり、多くの医師、薬剤師の先生方、企業の方、出雲市役所の方に助けていただきました。
 コンピューターシステムエンジニアさんは高校の先輩ですし、市役所の担当係長さんは高校3年間の同級生で、窮地の私を助けてもらいました。
 出雲市で医療ITのプロジェクトがまとまりやすいのは、小さな町ですから、もともと顔なじみが多いことも大切な要素だと思います。


 (3)診療所の電子カルテ内容を調剤薬局で閲覧するシステムを稼働

 出来上がったシステムは2つの要素から構成されており、すでに実運用をしています。

 1つ目は調剤薬局の処方箋情報に基づく感染症サーベイランスです。

 この結果と学校欠席者サーベイランス、外来症候群サーベイランス、救急車搬送サーベイランスの結果、さらに国の発生動向調査に基づく島根県感染症情報と実際の臨床情報を加味して、写真のように毎日住民向けにインターネットデータ放送を通じて告知しています。

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 2つ目は、診療所での電子カルテ内容を調剤薬局で閲覧していただくシステムです。

 すでに電子カルテが導入されている病院では院内処方時、薬剤師の先生方は電子カルテを閲覧しながら調剤することが可能です。
 しかし、院外の調剤薬局では、医療機関での診療情報を閲覧することは不可能だったので、今回、ここにフォーカスをおいてシステム作りをしました。

 ご利用いただいた薬剤師さんからは
 「システム導入前は、血糖降下薬が増量になった時は、『血糖値が悪くなったのですか?』と聞き出していたのが、診療情報を把握することによって『HbA1c値が6.5から6.9になったからお薬が増えたのですね』といったようにストレートに質問できるようになった
 とのご意見をいただきました。
 このほか「医療安全」「薬物治療と生活習慣に関する服薬指導の質」「患者情報・調剤情報共有による効率化」などが有効だったとご評価いただきました。

 まとめの御意見として「医療安全」「薬物治療と生活習慣に関する服薬指導の質」「患者情報・調剤情報共有による効率化」などの有効であったとご評価いただきました。



 今後、医薬連携システムヘの参加薬局が増えれば、「IT版お薬手帳」を作ることが可能です。

 この利用方法の一つに災害時の利用があります。

 先の大震災では、慢性疾患をお持ちの患者さんの場合、薬やお薬手帳が流されています。
 さらに、受診していた医療機関や薬を受け取っていた調剤薬局も機能しなくなり、お困りになった方が多数いらっしゃいます。

 もし、調剤情報がネット上に管理されており、非常時に処方調剤情報を参照することができれば、今後有用です。
 このためには、受診する病院の電源が確保され、ネットがつながっていることが前提です。
 さらに、緊急避難時の個人認証の手段としての生体認証や、避難時でも携行されやすい携帯電話を用いる工夫が必要だと思います。


 次の目標として、「電子化された処方内容」を医療機関から調剤薬局のレセプトシステムに直接リンクすることに取り組むことにしました。
 これが可能になれば調剤業務にかかわる時間が短縮され、患者さんへの利便性が高まると思います。

 現在、出雲医師会では、総務省の「健康情報活用基盤構築事業」でこのシステムについて取り組んでいますので、今後ご紹介させていただきます。