出雲の開業医「生活密着医療がモットーです」

  • ブログの紹介
     地域医療 = 生活密着医療と考え、「地域の方々の生活に貢献できる医療の進化を推進する」がモットーの開業医が、診療、研究、IT事業に奮闘する日々を出雲の地から綴ります。
  • 著者プロフィール
    杉浦弘明(すぎうら ひろあき) 1965年生まれ。1991年島根医大卒。島根県出雲市に「すぎうら医院」を設立して15年目の開業医。日常診療の傍ら、研究・IT事業など多方面で活躍中、後世に残る英語論文にも挑戦している。

個別指導と電子カルテ

 先週、中国四国厚生局の個別指導を受けましたので、その準備と実際について書きます。


■地方厚生局からの通知


 当院「すぎうら医院」は、一般外来に加えて在宅診療を行っています。一昨年、おそらく高点数を理由に集団的個別指導を受けていました。その後、在宅診療での看取りが評価され、厚生局から「在宅緩和ケア充実診療所」に認められましたが、これにより当院の在宅診療はさらに高点数となりました。そして、訪問診療の需要に対応して、午後の外来診療を行わず訪問診療をするようになったところ、ひと月の患者数が減り総診療報酬が増えたので1人当たりの平均点数が高くなり個別指導の対象となることは避けられなくなっていました。
 
 ついに、8月に厚生局から個別指導の案内が書留封筒で届きました。予想していたとはいえ、先々の不安を感じ動揺しました。その一方で、新規個別指導の時から20年以上指導を受けておらず、在宅診療を本格的に行っている当院の保険診療の方向性が当局の意向とマッチしているのかを確認したい気持ちもありました。
 
 通達到着後、院内掲示物と事務的な提出物の確認をしました。
 
 
■1週間前の指導患者リストと医師のできる準備
 
 
 個別指導の1週間前の朝9時に20名、前日に10名の患者リストがfaxにて送付されました。在宅診療分と外来分の割合は半々でした。レセプトこそが当院の診療状況を判断する最優先資料と考え、最初にリストに載った患者さんの過去1年分のレセプトを全て印刷して縦覧ました。
 
 私が行った事前準備は以下の通りです。

通知には患者さんの氏名しか記載されておらず、どの月が個別指導の対象か分かりません。ただ、初診患者さんはある特定の月しかありませんでしたので、自ずと「この月と、その翌月であろう」という傾向が見えてきました

② 当院では電子カルテを使用していますで、カルテ確定後の変更には修正日時が入ります。したがって準備としてできることは、カルテを見直して、レセプト項目から推察される内容がカルテのどこに書いてあるかを確認し、個別指導当日にスムーズに説明できるようにしておくことです。

③ 電子カルテをpdfで印刷して紙媒体を会場へ持参しようとしたのですが、初診日から20年以上経過している方もおられるため、短期間での印刷は不可能であり、当局に相談し電子カルテシステムを会場に持って行くことにしました。

④ 患者さんの画像データは電子カルテシステムとは別のPACSで管理されていますので、30人分の画像データをそれぞれDICOMビューワー付きのCDに焼き付けました。


■そして当日


 事務方の書類や事務業務フロー全般は、先方の事務官が確認されます。保険診療の担当は指導医1名と事務官1名でした。当方のシステムに先方がビデオモニターをつけて閲覧されました。基本的にはリストの順番通りで、レセプトに事前に質問事項を記入していらっしゃいました(レセプトの範囲を逸脱する質問は通常は無いと思います)。
 
 共通項目として最初に尋ねられるのは病名についてです。「肝機能障害疑い」「腎機能障害疑い」というように多数列挙するのではなく、主要な疑い病名を記載し、後はレセプト内の症状詳記として記載するように指摘されましたので、素直に従います。しかし、それで支払基金が本当に通してくださるのか、別の心配があります。レントゲン写真の供覧も求められましたので患者ごとにデータを用意しておいたので慌てずに済みました。
 
 在宅診療の患者さんに関して必ず尋ねられ、カルテの記載が確認されるのは、「在宅時医学総合管理料の同意書(印鑑付き) 」、「毎月の訪問計画のカルテ記載」、「訪問看護指示書」、在宅指導に関する管理料(自己注射、酸素療法、人工呼吸器、中心静脈、陽圧持続呼吸療法etc)の算定根拠と指示、指導事項の記載です。
 
 外来診療で聞かれるものは「特定疾患管理指導料の記載内容」、同じく「難病外来指導管理料」でした。今回、ある指導項目に対してカルテ記載漏れをしていたのが事前チェックで分かっていました。当日その指導項目のカルテ記載の有無について(やはり)問われましたが、「記載していません」と謝りました。もちろん謝って済むことではなく、その項目については1年分自主点検し対象分については返還となりました(多くの部分は毎日記載していますので、多額ではありませんでした)。
 
 
■感想
 

 患者さんと感情を交わしながら、知力、技術、体力を必要とする実臨床を保険診療として行うためには、事務作業を齟齬なく遵守の上、保険請求の根拠となるカルテ記載が必要です。保険診療は法律に基づくルールですから、感情とは別問題です。厚生局が持参される個別指導の基本資料はレセプトだけです。実際の指導はそのレセプトとカルテ記載と必要書類の突合です。もし個別指導でカルテ内容と臨床成績と患者さんの感想が審査され、良い臨床成績の場合評価されるといいのですが、ご存知のように決してそのようなことはなく、あくまで減点法です。


■電子カルテでの対応


 電子カルテ時代ですので、事務方と協力すれば診療と会計が行われたその日のうちに、レセプトに記載されるべき医療請求内容が整理できます。このうちカルテに算定の根拠となる記載が必要であると定められている事項は、医師に当日の指導等の事実確認とカルテ整理がなされる運用方法にしておくと実際の個別指導では何ら心配がいらないと思いました。

 今回、病名が多かったことと自主返還があるので、「経過観察」で済むか「(来年)再指導」となるかは微妙なところです。ただ、今回の「個別指導」は、文字通り「指導」ととらえて、今回の「指導」事項に沿って、普段の運用方法を改善し、毎回カルテ記載が正しくなるように修正したら、次回の「個別指導」では「経過観察」になるであろうと前向きな気になりました
 

■ 今回の「個別指導の」の理由は


 最後に、担当官に個別指導の理由を尋ねましだか、教えていただけませんでした

間近に迫る医師・看護師たちのオーケストラ演奏会

 僕たちのDNAフィルハーモニック(医師 Doctor、看護師 Nurse、地元在住の芸術 Artistで構成)の演奏会も、今年で第6回を迎えます。その本番を来週に控え、練習と準備もラストスパートとなりました。

 今年の曲目は、F.シューベルト作曲 交響曲第7番「未完成」J.ブラームス作曲 ヴァイオリン協奏曲です。


■演奏者から医師へと変わる頼もしい仲間たち

 
 午前のパート練習を終え、これから合奏練習開始という直前、クラリネットのA先生は緊急帝王切開のため手術室に呼ばれていきました(写真1)。クラリネットの演奏から、医師の仕事へ変わる仕草は地域医療に携わる仲間として頼もしい。優しいA先生なら生まれてきたベビーをしっかり守ってくれるでしょう。

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写真1:練習直前に緊急帝王切開手術に呼ばれ、クラリネットを片付けるA先生

 午後の練習の一曲目は、J.ブラームス作曲 ヴァイオリン協奏曲です。一昨年、指揮者の長坂先生(内科医)のご子息がハンガリーのドナウ国際音楽コンクールのヴァイオリン部門で第2位入賞という素晴らしい実績を残されました。その地元お披露目です(写真2)。映画音楽のように様々な情景を彷彿とさせるテーマが見事に展開されていく曲です。現代人には乗り越えられないオリジナリティです。
 
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写真2:J.ブラームス作曲 ヴァイオリン協奏曲練習風景 

 僕が担当するのは木管楽器のバスーン(ファゴット、写真3)。中学1年の時から演奏していますので、かれこれ40年の演奏歴になります。写真3中央にリードが見えています。2枚のリードの楽器です。最近になってタブルリードではあるものの、主に下側のリードを鳴らすようにしたほう良く響くことがわかりました。てっきりタブルリードだから上下均等に鳴らすものだと思っていました。失われた40年です。

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写真3:バスーン(ファゴット)
 
 このクラシック音楽に技術革新はあるのかと常々思っていましたが、ありました。僕は天然の葦製のリードを使っているのですが、泌尿器科医の先輩は樹脂製のリード(写真4)をお使いでした。使わせていただくと非常に軽いレスポンスです。天然素材性より長く使えるとのことで、早速、某通販サイトへアクセスし、購入しました。気が付いたら、このサイトで体に身に着けているもののほとんどを購入していました。流通と情報文明の進歩はすさまじいですね。田舎であっても購入できないものは少なくなり、都会暮らしとのハンディはずいぶん埋められました。

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写真4:樹脂製リード
 


■「未完成」1楽章に緩和ケアを思う


 
 午後の練習の2曲目は、F.シューベルト作曲 交響曲第7番「未完成」です。

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写真5: 1楽章の最終部分について指揮者の要望を書き込んだ楽譜。「音楽が終わりに向かっている雰囲気」を表現してくださいとのこと

 学生時代から何度も演奏している曲です。通常、交響曲は4楽章で構成されますが、シューベルトが3楽章の最初までしか書かいていなかったので、このまま1、2楽章だけで「未完成」交響曲として発表されました。交響曲では3楽章は3拍子です。未完成では1楽章も2楽章も3拍子ですから、このまま3楽章も3拍子で書くのはしんどいのかもしれません。それにしても美しい曲です。 第一楽章冒頭は チェロとコントラバスの低く、そして深いテーマから始まり、オーボエとクラリネットの高い音の静かなテーマへと引き継がれていきます。
 
 指揮者の放射線科医F先生から1楽章の最終部分について、「音楽は終わりに向かっている雰囲気」を表現してくださいとのことでした。楽譜に書き込みながら、在宅医療で緩和ケアをしている僕の心に直接響きました

 「僕も患者さんも同じ人間で終わりのある命。では、癌等で終末期にある患者さんと僕は何が違うのであろうか」―。終末期とは“人生が終わりに向かっていることが明確になった”状態であるという自分の定義づけができました。そして、このフレーズを演奏しました。静かで重い人生の終焉を感じました。一方、ブラームスのヴァイオリン協奏曲は「すっと」終わります。

 練習直後に、オーボエの研修医1年目K先生も緊急内視鏡で招集されて行きました。内分泌医のN先生も電話に呼びだされ急いでお帰りでした。もちろん、僕も練習中に患者さんを看取るために中座したことがあります。

 来週の本番だけは皆、オフコールになっています(いるはずです)。このようなオーケストラ活動ですが、今年もチケットはまぁまぁの売れ行きで、当院の待合室に貼ってあるパンフレットを見て、患者さんが何人も来て下さることになっています。

医師、経営者としての目標

 開業医とは「開業=経営」「医=医師」の合成語なので、理念を持った経営と医師として職責の両方を全しなければならず、意外とマルチタスクです。都会であっても地方であっても、開業医の職責は何も変わりません。

 僕は医師として、外来に来られた方に評価される医院づくりをしたいと思っています。また当院に通院してきた方が、足腰が弱ったり、悪性腫瘍等のため通院できなくなった時にも診療を継続するため、24時間365日の訪問診療が可能な現在の体制を維持することも目標の1つです。
 
 経営者としては、現在従業員と、地域の同業種平均より多くの所得で雇用契約を結んでおり、彼らが安心して定年(65歳)まで働ける職場づくりを目指すと約束しています。このために経営基盤を盤石にしないといけません。


 ■開業医として実践している2つのこと


 1つ目は「理念に基づく長期的な医業を継続するために、診療報酬は適切に、そして算定要件を満たすものは全て計算する」ということです。24時間365日の訪問診療体制ができて初めて公言できるようになりました。
 
 2つ目は国の医療政策の方向を見定め、追随することです。このためには正しい資料を得ることが必要で、それは厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)の資料だと思います。在宅診療については以下の資料をぜひご覧ください。
 
 中医協資料からは、在宅療養支援診療所以外の医師の訪問診療は多いものの、在宅看取りの体制が若干弱いことが見て取れます。看取り体制の評価が次期診療報酬改定で検討事項となりうる可能性があります。