出雲の開業医「生活密着医療がモットーです」

  • ブログの紹介
     地域医療 = 生活密着医療と考え、「地域の方々の生活に貢献できる医療の進化を推進する」がモットーの開業医が、診療、研究、IT事業に奮闘する日々を出雲の地から綴ります。
  • 著者プロフィール
    杉浦弘明(すぎうら ひろあき) 1965年生まれ。1991年島根医大卒。島根県出雲市に「すぎうら医院」を設立して15年目の開業医。日常診療の傍ら、研究・IT事業など多方面で活躍中、後世に残る英語論文にも挑戦している。

在宅訪問管理栄養士が活躍しています

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 前々回のブログにて、今後は地域包括ケアが進む中で食の重要性が増すことについて説明いたしました。当院では現在、在宅で管理栄養士が活動しています。
 
 写真は当院の管理栄養士2名が地元の名産品「出西(しゅっさい)生姜」を生産農家で収穫し(写真1)、土を落とし (写真2)、包装している(写真3)ところです。小ぶりの生姜ですが、繊細な食感でピリリと辛いのが特徴です。この農家さんと当院は野菜作りを一緒にさせていただく予定となっています。
 
 当院で在宅診療部を立ち上げて3年半が立ちます。これまで大きく3つの患者さんのパターンを経験してきたことを2015年12月18日の本ブログで紹介いたしました。悪性腫瘍 (図1)、心不全・慢性呼吸不全(図2)、認知症、脳卒中後遺症、老衰で長期寝たきりの後、衰えて亡くなる場合(図3)です。ご家族とのかかわりの中で、医師のアドバイスだけではどうにもならない問題がそれぞれのパターンに出てくるのです。
 

■在宅で病態に合わせた食事を提供するために
 
 
 入院中は管理栄養士のサポートのもと治療食が提供されていますが、いったん家庭に帰ると食事は介護するご家族にとって分からないことだらけになります。
 
 末期悪性腫瘍では、本人が食べたい欲求を叶えてあげるため、本人の好みの食材で希望の食事を調理できます。病院食ではなく好みの食事ができるのが在宅診療の良さの一つです。
 
 慢性呼吸不全では、特に呼吸筋力低下を防ぐ高カロリー食をどのように提供するか、脳卒中後遺症、認知症、老衰の方には、摂食嚥下機能低下に合わせた食形態の提供を工夫して、低栄養による誤嚥性肺炎、骨折、褥瘡を予防することが必要です。
 
 このため在宅診療を開始して3年たった時点で、在宅診療部長の中山医師が旗を振り、管理栄養士2名を採用し全国から多くの先生方の教えをいただき、在宅での訪問栄養指導を始めました。その成果につきましては今後本ブログでご案内いたします。

在宅緩和ケアチームがもう少しだけ早く癌治療に関われたら

 僕が医学部4年生の時に母がすい臓癌になり、腰の痛みで大変苦しんだ末、病院で亡くなりました。遺体が家の中に入り、家族が「お母さん、家に帰ったよ」と言ったことを覚えています

 それから30年の時が過ぎ、僕は今、在宅緩和医として癌の末期状態を自宅で過ごす方のお手伝いをしています。毎週何名か新しい患者さんを担当させていただいています。

 状態が悪い方は入院先だった病院から自宅まで介護タクシー等の寝台車でお帰りになられます。途中のアクシデントが心配な時は同乗させていただくことがよくあります。家が近づいてくるとご家族は決まって患者さんに「家に帰ったよ」と言われるのです。 僕の母の場合とは違って、生きて自宅に帰られて本当に良かったと思います。病と闘っておられる方にとっては家こそ安心できる場だと思う時です。

 翌日診療に伺うと、「昨夜は少し休めました」 とか「家族に囲まれてフルーツを少し食べました」などとおっしゃいます。でも多くの場合は、5日~10日ぐらいしか自宅で過ごせません。残念ながら病気の進行が速いのです。退院された日に亡くなられることも決して珍しいことではありません。


■緩和ケアで生命予後が伸びる


 亡くなる2週間ぐらい前の歩ける時に自宅に帰れると、家族と食事をしたり、 リラグゼーションしたり、家族と大切なお話をする時間がたくさん取れると思います。

 論文(http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1000678)でも、早い時期から緩和ケアを受けると精神的に落ち着き、生命予後も伸びると発表されています。緩和ケア医が相談に乗る時間を多くとることができますし、癌の進行に伴う症状であっても、一つ一つ対応すれば数週間であれば長く生きられると思います。
 私の経験でも、わずか数週間であっても痛みさえコントロールできれば、この間にお子様がご結婚したり、お孫さんの誕生に恵まれたり、息子さんに会社経営を引き継がれた方もいらっしゃいます。

 でも、元気な時に緩和ケア医の診察を受けることは難しいことです。癌の治療をしておられる病院の先生のお立場では、「抗癌剤での治療効果はもはや期待ではないので、これからは自宅で治療をしましょう」 とは患者さんを前にしてなかなかおっしゃりにくいと思うのです。また緩和ケア病棟も、悪性腫瘍の縮小を目的とした化学療法実施中であれば利用ができない仕組みになっている病院が多いです。したがって、化学療法をやり尽くした上で緩和ケアを利用しているのが現状です。

 今後は癌の治療医と緩和ケア医が共同して癌治療に関われるようになってほしいと思いますが、なかなか簡単ではないとも感じています。この場合、あうんの呼吸で、癌の治療医を緩和ケア医がサポートする必要があります。
 ましてや、癌の治療医と緩和ケア医が別の医療施設である場合は、患者さんのスムーズな医療連携が必要です。地域医療ネットワークが整備されている地域であればこれは可能であると思います。

地域包括ケアシステムと農業

 2025年には団塊世代の方がだんだんと元気がなくなり、要介護状態の方が急増すると試算されています。日本政府は現在、この2025年を見据えて「地域包括ケアシステム」という社会保障の整備を急いでいます。今はバラバラに動いている医療、介護福祉、行政、ボランティア、民間のマンパワーと財源を有効活用して、病気になっても病院での入院期間は最小限にとどめて、自宅などの住み慣れた場所で療養する社会づくりを始めたのです。

 昨年までは耳慣れなかった地域包括ケアシステムも、今では医師同士で普通に会話の話題になっています。もう少しすると、ニュースなどで一般の方を対象として報道されるようになると思います。

 地域包括ケアシステムでは、「食」と「農業製品」が非常に大切となります。何らかの病気で病院に入院すると、医師、看護師、言語聴覚療法士、管理栄養士からなる栄養サポートチームにより、患者さんの病状に見合ったカロリー、栄養バランス、形態での病院食が提供されます。2025年になって自宅で療養される方が増えると、病院と同じような食及び食事環境が家庭でも重要視される時代となるのです。病気の方がいらっしゃる各家庭では、病院と同じような、家庭医や訪問看護師、管理栄養士が提案する食事に基づく栄養サポートが必要となります。

 衛生的で快適な環境で適切な治療、介護を受けることが必要なのはもちろんのこと、私たちの体はすべて食べ物から成り立っているので、良い食べ物を食べて栄養状態をよくすることが大切です。


■自宅の食養生は3パターン


 食養生といっても実は様々で、大きく3つのパターンがあります。

 1つ目は、摂りすぎを抑える食事で、例えば、糖尿病での糖分、心臓病での塩分と脂質と水分、腎臓病ではタンパク質と塩分の制限が必要です。
 2つ目は、栄養を多く摂る食事で、慢性気管支炎でのカロリーと脂質、骨折予防ではカロリーと脂質と鉄分を含むミネラルです。
 3つ目は、療養生活により潤いを与える食事です。癌の末期状態の方であれば、ご本人が望まれるのであればお口の中にスプーン一さじ分でも好みのものを食べていただきます。これにより、QOLを高めます。

 このように、2025年の超高齢化社会では、今以上に身体に適した食事が必要です。このためには食材選びからが重要です。したがって、今以上に身体に良い食材が注目されることとなり、一般の方の食材、特に農作物への関心はとても高まると考えています。