出雲の開業医「生活密着医療がモットーです」

  • ブログの紹介
     地域医療 = 生活密着医療と考え、「地域の方々の生活に貢献できる医療の進化を推進する」がモットーの開業医が、診療、研究、IT事業に奮闘する日々を出雲の地から綴ります。
  • 著者プロフィール
    杉浦弘明(すぎうら ひろあき) 1965年生まれ。1991年島根医大卒。島根県出雲市に「すぎうら医院」を設立して15年目の開業医。日常診療の傍ら、研究・IT事業など多方面で活躍中、後世に残る英語論文にも挑戦している。

在宅緩和ケアチームがもう少しだけ早く癌治療に関われたら

 僕が医学部4年生の時に母がすい臓癌になり、腰の痛みで大変苦しんだ末、病院で亡くなりました。遺体が家の中に入り、家族が「お母さん、家に帰ったよ」と言ったことを覚えています

 それから30年の時が過ぎ、僕は今、在宅緩和医として癌の末期状態を自宅で過ごす方のお手伝いをしています。毎週何名か新しい患者さんを担当させていただいています。

 状態が悪い方は入院先だった病院から自宅まで介護タクシー等の寝台車でお帰りになられます。途中のアクシデントが心配な時は同乗させていただくことがよくあります。家が近づいてくるとご家族は決まって患者さんに「家に帰ったよ」と言われるのです。 僕の母の場合とは違って、生きて自宅に帰られて本当に良かったと思います。病と闘っておられる方にとっては家こそ安心できる場だと思う時です。

 翌日診療に伺うと、「昨夜は少し休めました」 とか「家族に囲まれてフルーツを少し食べました」などとおっしゃいます。でも多くの場合は、5日~10日ぐらいしか自宅で過ごせません。残念ながら病気の進行が速いのです。退院された日に亡くなられることも決して珍しいことではありません。


■緩和ケアで生命予後が伸びる


 亡くなる2週間ぐらい前の歩ける時に自宅に帰れると、家族と食事をしたり、 リラグゼーションしたり、家族と大切なお話をする時間がたくさん取れると思います。

 論文(http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1000678)でも、早い時期から緩和ケアを受けると精神的に落ち着き、生命予後も伸びると発表されています。緩和ケア医が相談に乗る時間を多くとることができますし、癌の進行に伴う症状であっても、一つ一つ対応すれば数週間であれば長く生きられると思います。
 私の経験でも、わずか数週間であっても痛みさえコントロールできれば、この間にお子様がご結婚したり、お孫さんの誕生に恵まれたり、息子さんに会社経営を引き継がれた方もいらっしゃいます。

 でも、元気な時に緩和ケア医の診察を受けることは難しいことです。癌の治療をしておられる病院の先生のお立場では、「抗癌剤での治療効果はもはや期待ではないので、これからは自宅で治療をしましょう」 とは患者さんを前にしてなかなかおっしゃりにくいと思うのです。また緩和ケア病棟も、悪性腫瘍の縮小を目的とした化学療法実施中であれば利用ができない仕組みになっている病院が多いです。したがって、化学療法をやり尽くした上で緩和ケアを利用しているのが現状です。

 今後は癌の治療医と緩和ケア医が共同して癌治療に関われるようになってほしいと思いますが、なかなか簡単ではないとも感じています。この場合、あうんの呼吸で、癌の治療医を緩和ケア医がサポートする必要があります。
 ましてや、癌の治療医と緩和ケア医が別の医療施設である場合は、患者さんのスムーズな医療連携が必要です。地域医療ネットワークが整備されている地域であればこれは可能であると思います。

地域包括ケアシステムと農業

 2025年には団塊世代の方がだんだんと元気がなくなり、要介護状態の方が急増すると試算されています。日本政府は現在、この2025年を見据えて「地域包括ケアシステム」という社会保障の整備を急いでいます。今はバラバラに動いている医療、介護福祉、行政、ボランティア、民間のマンパワーと財源を有効活用して、病気になっても病院での入院期間は最小限にとどめて、自宅などの住み慣れた場所で療養する社会づくりを始めたのです。

 昨年までは耳慣れなかった地域包括ケアシステムも、今では医師同士で普通に会話の話題になっています。もう少しすると、ニュースなどで一般の方を対象として報道されるようになると思います。

 地域包括ケアシステムでは、「食」と「農業製品」が非常に大切となります。何らかの病気で病院に入院すると、医師、看護師、言語聴覚療法士、管理栄養士からなる栄養サポートチームにより、患者さんの病状に見合ったカロリー、栄養バランス、形態での病院食が提供されます。2025年になって自宅で療養される方が増えると、病院と同じような食及び食事環境が家庭でも重要視される時代となるのです。病気の方がいらっしゃる各家庭では、病院と同じような、家庭医や訪問看護師、管理栄養士が提案する食事に基づく栄養サポートが必要となります。

 衛生的で快適な環境で適切な治療、介護を受けることが必要なのはもちろんのこと、私たちの体はすべて食べ物から成り立っているので、良い食べ物を食べて栄養状態をよくすることが大切です。


■自宅の食養生は3パターン


 食養生といっても実は様々で、大きく3つのパターンがあります。

 1つ目は、摂りすぎを抑える食事で、例えば、糖尿病での糖分、心臓病での塩分と脂質と水分、腎臓病ではタンパク質と塩分の制限が必要です。
 2つ目は、栄養を多く摂る食事で、慢性気管支炎でのカロリーと脂質、骨折予防ではカロリーと脂質と鉄分を含むミネラルです。
 3つ目は、療養生活により潤いを与える食事です。癌の末期状態の方であれば、ご本人が望まれるのであればお口の中にスプーン一さじ分でも好みのものを食べていただきます。これにより、QOLを高めます。

 このように、2025年の超高齢化社会では、今以上に身体に適した食事が必要です。このためには食材選びからが重要です。したがって、今以上に身体に良い食材が注目されることとなり、一般の方の食材、特に農作物への関心はとても高まると考えています。


地域包括ケアと医師・看護師・地元芸術家からなるオーケストラ活動

無題1
(アントニン・ドヴォルザーク 交響曲第9番 ホ短調 作品95『新世界より』
第一バイオリン冒頭部  指揮者用スコアの表紙)


無題2
ファゴット(バスーン)の自撮り


 私たちのオーケストラ、「DNAフィルハーモニック」は島根大学医学部出雲キャンパスの「シュールカメラート管弦楽団」の OB・OGを母体とした医師(Doctor)看護師(Nurse) 及び地元在住の芸術家(Artist)で結成されています。僕は団長をしています。

 第5回となる次回の演奏会は、医療関係者が企画、運営、実行を行うオーケストラならではのアイデンティティーにより、音楽を通じて地域の医療、介護、福祉分野で地域包括ケアに彩を添えたいと思います。そこで、普段は家や施設に閉じこもりがちの高齢者、障がいのある方にたくさん来ていただけるようなプログラムにしました。

 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲 フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 Kv.299は、美しいフルートのソロを開業医の手納信一先生が担当します。そして、アントニン・ドヴォルザーク作曲 交響曲第9番 ホ短調 作品95『新世界より』第二楽章は「遠き山に日は落ちて」として子供の時から聞いてきた親しみやすい曲です。指揮はともに医師の福庭栄治先生、長坂行博先生です。

 このように、聞き覚えのある曲のプログラムですから、オーケストラの演奏会に縁遠かった方でも気軽にお越しいただけることでしょう。


■演奏会の外出がリハ目的になることに期待


 11月27日(日曜日)に開催予定の次回演奏会を今からご家庭のカレンダーに大きな丸印を付けていただき、いつもと違う日曜日を楽しんでいただきたいと思います。リハビリ中の方であれば、演奏会の外出がリハ目的になることも願っています。当日は、お知り合いや家族や施設の方と連れ立ってお越しいただくことにより、コミュニケーションの向上につながるといいですね。なにより、楽曲の持つ芸術性を楽しんでいただけると思います


■学生時代の憧れの曲


 残りの一曲はジュゼッペ・ヴェルディ作曲 『運命の力』序曲です。僕の中学時代の思い出の曲です。もし、このブログの読者の方が私のようにブラスバンド経験者であれば、吹奏楽コンクールの自由曲として一年中練習したご経験や、ライバル校の演奏を聴いて熱い思いをした方もあるでしょう。

 僕は出雲市立第一中学校という50年間いまだに全国大会常連校のOBです。先日、母校に長男が入学しました。体育館の2階奥からアリーナに鳴り響くブラスバンドの響きは、合唱部の2階観客席から降り注ぐ天使の声と相まって、驚きに値する荘厳なものでした。

 現役時のライバル校は、お隣の出雲市立第二中学校でした。ともに全国大会で金賞を受賞したのですが、ライバルの第二中学校の自由曲がこの「ジュゼッペ・ヴェルディ『運命の力』序曲」で、島根県大会、中国大会、全国大会と毎回美しい音色を奏でており、いつかは自分で演奏したい憧れの曲となったのです。

(参考)
以下に第1回から4回までの DNAフィルハーモニーのプログラムをご紹介します。

平成24年11月24日(土曜日)  第1回演奏会
出雲市民会館大ホール
セルゲイ・ラフマニノフ 「ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18」
アントニン・ドヴォルザーク 「交響曲第8番ト長調作品88」
指揮 長坂行博、喜久里誼
ピアノ独奏 林朋之(医師:島根大学医学部OB)

平成25年12月22日(土曜日) 第2回演奏会
大田市民会館大ホール
ルロイ・アンダーソン 「ブルータンゴ」 「タイプライター」
ルードヴイッヒ・V・ベートベン 「交響曲第7番 イ長調 作品 92」 より第1楽章
ピョートルトル・I・チャイコフスキー 「バイオリン協奏曲 ニ長調 作品35」
ルードヴイッヒ・V・ベートベン 「交響曲第5番 ハ短調 作品67 「運命」
指揮 長坂行博
バイオリン独奏 長坂拓己


平成26年11月29日(土曜日) 第3回演奏会
出雲市民会館大ホール
ウェーバー 歌劇「魔弾の射手」より序曲
池辺晋一郎 ファゴットとオーケストラのための協奏曲「炎の資格」
ヨハネス・ブラームス 交響曲第1番 ハ短調
指揮:長坂行博氏
ファゴット独奏 木村恵理

平成27年11月22日(日曜日) 第4回演奏会
大田市民会館大ホール
ルードヴイッヒ・V・ベートベン 序曲 「エグモント」 作品84
マックス?ブルッフ バイオリン協奏曲 第1番 ト長調 作品26
ルードヴイッヒ・V・ベートベン 交響曲第3番 変ホ長調 作品55 「英雄」
指揮 福庭栄治、長坂行博
バイオリン独奏 長坂拓己