出雲の開業医「生活密着医療がモットーです」

  • ブログの紹介
     地域医療 = 生活密着医療と考え、「地域の方々の生活に貢献できる医療の進化を推進する」がモットーの開業医が、診療、研究、IT事業に奮闘する日々を出雲の地から綴ります。
  • 著者プロフィール
    杉浦弘明(すぎうら ひろあき) 1965年生まれ。1991年島根医大卒。島根県出雲市に「すぎうら医院」を設立して15年目の開業医。日常診療の傍ら、研究・IT事業など多方面で活躍中、後世に残る英語論文にも挑戦している。

科学の発展と裸の人間~Nさんとのメールのやり取りから

 本ブログを開始してから、かれこれ5年が経ちます。編集は開始当初から変わらず医事新報のNさんが担当しています。
 
 学会発表の多忙を理由に、少し原稿の提出が遅くなったのですが、前回ブログの脱稿後にいつものようにNさんとメールでやり取りをしてたら無意識のうちに立派なクロストークになったので、今回は趣向を変えて、そのやり取りをそのままブログ入りさせていただきます。


■11月某日 Nさんから私へのメール
お世話になっております。
お送りいただきましたお原稿、確かに受け取りました。
お忙しいなか誠にありがとうございました。

栄養士さんのご活躍、頼もしいですね。
情報をチーム全体で共有できるシステムも素晴らしいです。

明日まで週刊誌の校了でバタバタしているため、
水曜日以降に校正原稿をお送りいたします。

取り急ぎ、お礼のみにて失礼いたします。


●私からNさんへのメール
急ぎませんので、ごゆっくり

文明の利器を使って急ぐばかりが豊かな人生ではありませんよ

人間の体は昔から変わりません
ゆっくりアナログの仕掛けもたまにはいいと思います (^^♪

といいつつ、文明の利器でお伝えしていますけど


■Nさんから私へのメール
>文明の利器を使って急ぐばかりが豊かな人生ではない―
いい言葉ですね!

●私からNさんへのメール
というのは、食事で治すのもそうですし
今年もオーケストラ活動していますが、200年前の音楽がどうして今も支持されるかと考えたとき

文明=科学の発展
文化=裸の人間が受け入れられるもの

と思ったからなんですよ
今の人間も裸になれば、自然を受け入れるしかないかないんですよ 


■Nさんから私へのメール
なるほど。

昨日放送されたNHKスペシャルを思い出しました。
アニメ監督の宮崎駿を追ったドキュメンタリーなのですが、
アニメで生命の躍動をどのように表現するか苦悩する宮崎駿に、
AIを用いたCGでつくった、痛覚のない人間のような物体が地面を這って進む映像を「ゾンビに使える」と披露するIT会社の社長。
宮崎駿は、障害を持った友人はハイタッチするだけでも苦労していることを説明し、
IT会社社長に「人の痛みが分かっていない。生命に対する侮辱だ」と落ち着いた厳しい口調で伝えていました。

このやり取りを見ていて、いくら科学技術が発達しても、人間の情・心は変わらないし、大事にしなければいけないとの思いを強く感じましたし、先生のメールを拝見して、それと同じことを感じました。


●私からNさんへのメール
在宅医療でいうなら

最新鋭のデジタル医療機器に取り囲まれた効率的安全運用優先の病院
家庭というアナログ空間

どちらがいいのかなぁ
人それぞれだと思いますが

管理栄養士とまめネット「在宅情報共有」システム ~食事作りというアナログと医療ITのデジタル活用

無題


 島根県では全県下医療ITネットワーク「まめネット」が稼働しています。そのサービスの1つである医療と介護施設で運用する「在宅情報共有システム」が本年4月から本格稼働しています。

 これまでの在宅医療の場合、患者さんごとに医療施設、介護施設が異なる職員が多職種連携を行っていますが、これだと情報の同時共有ができません。しかし、まめネットの在宅情報共有システムを使うと大切な情報をセキュリティレベルの高いシステムで共有できます。

 当院では本年4月から管理栄養士による在宅訪問栄養指導をしており、現在2名の常勤管理栄養士が日々患者さんのお宅で活躍しています。患者さんの現在の食事内容や噛む力、飲み込む力(摂食嚥下機能)を確認して、現在の病態にあった食事の献立、食べ方を家族に伝えたり、実際に台所で作り、それをまめネットで関係者に報告しています。食事を摂るには口腔内も健康も大切ですので、しっかりチェックし、体調全般についても報告します。

 彼女たちの働きぶりは素晴らしいです。実際に、手術ができない腹部腫瘍があり、抗癌剤治療をしない段階になって退院したある患者さんは、お家に帰って元気を取り戻した様子が窺えます。その活躍を実際に彼女たちのレポートとしてお見せします(個人情報を配慮して若干編集しています)。生きる力を取り戻す患者さんを全力でサポートするのが在宅チームの仕事だと思います。

 2つ目のケースのように「左足首のしびれ」といった訴えを患者さんが管理栄養士に相談された場合など、在宅情報共有システムを使えば担当時間内で患者さんの様子で気づいたことをチーム内の医師、看護師といった専門職につなげることができます。治療に結びつくかもしれない、ちょっとした患者さんの訴えが専門職に情報として届けられます

ケース1
腹部悪性腫瘍、脳転移
情報共有施設:病院、訪問看護ステーション、当院
無題

Aさん訪問報告
すぎうら医院管理栄養士:B(2016/11/10 11:24)

 本日訪問しました。
 眼を閉じておられましたが、訪問時はしっかりとお話しできました。今朝はごはん、しじみ汁、ホウレン草と卵のソテー、キャベツと竹輪の酢の物を召し上がったそうです。味噌汁でも特にしじみ汁がお好きとお話しされました。まずは自宅で好きなものを召し上がるのが第一と思います。食事量は少ないのでたんぱく質量は多くありませんが、エネルギー不足にならないような支援が必要です。

 御主人は食事作りが苦ではありませんので、「カリウムの多い食材は少し控え気味の方が良いかもしれません」と伝えています。残歯は数本で奥歯はないものの食事形態は刻むこともなく歯茎で食べられるようです。「やっぱり家のごはんがおいしいわ」とお話しされました。

 口腔内のケアはされていませんでしたので、ジェルを購入していただき日々のケアをご主人に説明しました


ケース2
腹部悪性腫瘍 腹膜転移
情報共有施設:ケアマネージャー、薬局、当院
無題2

Cさん訪問報告 
すぎうら医院:管理栄養士D(2016/11/10 13:24)

 2016/11/10 10:00 訪問
 本日、ご本人、お嫁さんと食事、口腔ケアについて話をしました。
 食事量は推定960Kcal前後、たんぱく質30~35gであるので、病態を考慮すると計算上ではエネルギー1537Kcal、たんぱく質57g程度摂れると良いと思います。今後味覚の変化や食欲が低下する可能性も伝え、ビタミン、微量元素の必要性も説明しました。

 上記をカバーする目的で、栄養補助食品をいくつか紹介し、ポチプラスV(野菜ジュースのような形態で、味覚異常を防ぐ亜鉛も多い)をご本人、お嫁さんにも試飲してもらいました。「野菜ジュースは普段から飲む習慣がないけど美味しいね」と言っておられました。

 口腔ケアについては、退院後から洗口液でゆすぐだけとのことでした。口腔内細菌を減少させ、誤嚥性肺炎を防ぎ抵抗力をつけるためにも歯磨きの必要性を話しました。お嫁さんから「ベッド上でケア出来るように水、受けも用意してあるのでできます」とのことでしたので、今日からお願いしました。舌苔はありませんが、糸状乳頭なく表面はツルツルでした。

 

在宅訪問管理栄養士が活躍しています

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(写真1)

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(写真2)

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(写真3)
 
 前々回のブログにて、今後は地域包括ケアが進む中で食の重要性が増すことについて説明いたしました。当院では現在、在宅で管理栄養士が活動しています。
 
 写真は当院の管理栄養士2名が地元の名産品「出西(しゅっさい)生姜」を生産農家で収穫し(写真1)、土を落とし (写真2)、包装している(写真3)ところです。小ぶりの生姜ですが、繊細な食感でピリリと辛いのが特徴です。この農家さんと当院は野菜作りを一緒にさせていただく予定となっています。
 
 当院で在宅診療部を立ち上げて3年半が立ちます。これまで大きく3つの患者さんのパターンを経験してきたことを2015年12月18日の本ブログで紹介いたしました。悪性腫瘍 (図1)、心不全・慢性呼吸不全(図2)、認知症、脳卒中後遺症、老衰で長期寝たきりの後、衰えて亡くなる場合(図3)です。ご家族とのかかわりの中で、医師のアドバイスだけではどうにもならない問題がそれぞれのパターンに出てくるのです。
 

■在宅で病態に合わせた食事を提供するために
 
 
 入院中は管理栄養士のサポートのもと治療食が提供されていますが、いったん家庭に帰ると食事は介護するご家族にとって分からないことだらけになります。
 
 末期悪性腫瘍では、本人が食べたい欲求を叶えてあげるため、本人の好みの食材で希望の食事を調理できます。病院食ではなく好みの食事ができるのが在宅診療の良さの一つです。
 
 慢性呼吸不全では、特に呼吸筋力低下を防ぐ高カロリー食をどのように提供するか、脳卒中後遺症、認知症、老衰の方には、摂食嚥下機能低下に合わせた食形態の提供を工夫して、低栄養による誤嚥性肺炎、骨折、褥瘡を予防することが必要です。
 
 このため在宅診療を開始して3年たった時点で、在宅診療部長の中山医師が旗を振り、管理栄養士2名を採用し全国から多くの先生方の教えをいただき、在宅での訪問栄養指導を始めました。その成果につきましては今後本ブログでご案内いたします。