出雲の開業医「生活密着医療がモットーです」

  • ブログの紹介
     地域医療 = 生活密着医療と考え、「地域の方々の生活に貢献できる医療の進化を推進する」がモットーの開業医が、診療、研究、IT事業に奮闘する日々を出雲の地から綴ります。
  • 著者プロフィール
    杉浦弘明(すぎうら ひろあき) 1965年生まれ。1991年島根医大卒。島根県出雲市に「すぎうら医院」を設立して15年目の開業医。日常診療の傍ら、研究・IT事業など多方面で活躍中、後世に残る英語論文にも挑戦している。

大学での講義、オーケストラ活動、息子たちとの釣り

 11月は教育文化活動趣味にと多忙な1カ月でした。
 
 
■母校で「地域医療学」を講義
 
 
 11月7日は母校の島根大学医学部で1年生を対象に、「地域医療学」として、市街地の地域医療医療ついて90分の講義を一コマ担当してきました。「地域医療」は病院以外も含めた地域全体の医療福祉と考え、病院外でも「学び」「実践」「仕組みづくり」を率先して行う「リーダーシップ」論を話してきました。
 
 そのなかで、3つのメッセージを伝えました。
 
 一つ目は、患者さんから「ありがとう」だけではなく、患者さんの願いを叶えた結果、「嬉しい」と言っていただけた時に高い評価を受けていることを教えました。
 
 二つ目は、医療者にとって必要なのは、知識、技術、経験、人間性だということです。それぞれに別のベクトルのものであり、一人ですべて兼ね備えることは大変です。しかし、これまで出会ってきた尊敬できる先生方は皆さん、この要素を備えていらっしゃいました。さらに現代の医師には、法令遵守の精神とともに、ミスをした時には潔く、隠さず、庇わない態度が謝罪を受け入れられやすいことも伝えました。
 
 三つ目は、医学部は単に医師養成所ではなく、学部であるので、科学を学ばなければならないということです。現在の医療内容は、一つ一つの薬剤、術式すべてが医学論文の蓄積の上に成り立っているので、自分自身が原著論文を作成することで、今後の医学の発展に寄与できるし、他の論文を論理的に読むことが容易になります。医師が学者であるためには、必ず英文による原著論文を執筆しなければなりません。
 
 
■盛況だったDNAフィルハーモニック演奏会
 
 
 11月27日には、医師(Doctor)、看護師(Nurse)及び地元在住の芸術家(Artist)で結成されたDNAフィルハーモニックの演奏会を、団長、実行委員長、演奏者という3つの立場で行いました。企画内容は6月の当ブログにてお伝えした通りです。
 
 開場30分前から長蛇の列ができ、座席数600名のホールにあわやお客様を収容しきれないかと思うほど盛況でした。あいにくの小雨であったことがむしろ幸いし、チケットを購入された方の中でお越しになれない方がいたため、何とか客席を確保できました。チケット半券数によると入場者は460名。関係者を入れると前席を残してほぼ満席です。小さめのホールですが、客席との距離が近く、お客様との一体感のある演奏会を開催できたと思います。診療所で主にチケットを販売したこともあり、オーケストラを初めて聞きに来られる方がたくさんいらっしゃいました
 
 当日はドヴォルザーク 交響曲第9番 ホ短調 作品95『新世界より』をはじめ、仲間の医師がソリストとして演奏する モーツァルト作曲 フルートとハープのための協奏曲など多くの方に馴染み深い曲を演奏したこともあり、楽しんでいただけたと同時に、オーケストラ聴衆者を増やすという文化啓蒙活動に寄与できたと思います。
 
 素敵な感想を3つご紹介します。 
 その1。「先生に言われてチケットを買って友達を連れて行ったけど、皆喜んでくれて友達に自慢できて嬉しいわ」
 冒頭にも書きましたが、「嬉しい」と言っていただけました。
 
 その2。いつも診察に来てくれるばぁちゃんが、演奏会当日に感動で泣きだし、翌日の診察日も僕の顔を見て感動を思い出して、また泣いてくれました。
 
 その3。小さなお子様が途中まで退屈していたらしいのですが、突然、「雷がした」と言って指揮者の真似をしだし、最後まで客席で立って指揮をしていたそうです。雷とは、新世界の一楽章冒頭のティンパニーのことかもしれません。
 
 すべての曲目が終了したときの会場写真を一枚紹介します。演奏者の満足げな顔が当日の成功を何より物語っていると思います。
1

 460名の観客の方と、70名弱の団員をコントロールするのは非常に大変でした。優しい声をかけてくれる方は何らかの世話人をしている方です。IT化された現代の特徴として、傍観者となった瞬間に人はとても冷たくなると思います。IT化によりたくさんの情報を得ていても、当事者ではないことには関わらないようにする情報判断に慣れてしまっています。そのため、傍観者となった場合は徹底して発言をしないんですね(僕もそうですが)。
 
 非常に大変ではありましたが、僕と同じく医師であり、オーケストラメンバー(フルート)の妻と世話人をやり遂げることができ、夫婦の思いが深まりました。中一の長男も期末試験の前日にも関わらず、コンサートの切符切りの仕事をしてくれました。 
 
 演奏会が終わったと思ったら、11月29日には再び島根大学で、修士課程の方に地域包括ケアに係る「地域包括ケア・トゥワイライトセミナー」の講義を担当し、『在宅医療とIT』についてお話してきました。ITを用いて6医療機関が24時間365日の緊急往診体制を整えていることに興味を持っていただいたようです。
2
 
 
 
■島根半島でたくさんの釣果
 
 
 こんな大忙しの11月でしたが、その間にも釣キチの長男、次男を連れて、島根半島のあちこちの釣り場に自宅から30分以内で出没。たくさんの釣果がありました。その中でも長男は「キジハタ」次男は「ハゼ」の大物を釣り上げ、父親の僕が料理をしました。
3
4

 在宅患者さんをたくさん担当させていただきながら、大学で講義をしたり、オーケストラ活動や釣りができるのも、信頼できる仲間とのタイムシェアによる万全な24時間365日 機能強化型在宅診療支援体制の賜物だと思います。

科学の発展と裸の人間~Nさんとのメールのやり取りから

 本ブログを開始してから、かれこれ5年が経ちます。編集は開始当初から変わらず医事新報のNさんが担当しています。
 
 学会発表の多忙を理由に、少し原稿の提出が遅くなったのですが、前回ブログの脱稿後にいつものようにNさんとメールでやり取りをしてたら無意識のうちに立派なクロストークになったので、今回は趣向を変えて、そのやり取りをそのままブログ入りさせていただきます。


■11月某日 Nさんから私へのメール
お世話になっております。
お送りいただきましたお原稿、確かに受け取りました。
お忙しいなか誠にありがとうございました。

栄養士さんのご活躍、頼もしいですね。
情報をチーム全体で共有できるシステムも素晴らしいです。

明日まで週刊誌の校了でバタバタしているため、
水曜日以降に校正原稿をお送りいたします。

取り急ぎ、お礼のみにて失礼いたします。


●私からNさんへのメール
急ぎませんので、ごゆっくり

文明の利器を使って急ぐばかりが豊かな人生ではありませんよ

人間の体は昔から変わりません
ゆっくりアナログの仕掛けもたまにはいいと思います (^^♪

といいつつ、文明の利器でお伝えしていますけど


■Nさんから私へのメール
>文明の利器を使って急ぐばかりが豊かな人生ではない―
いい言葉ですね!

●私からNさんへのメール
というのは、食事で治すのもそうですし
今年もオーケストラ活動していますが、200年前の音楽がどうして今も支持されるかと考えたとき

文明=科学の発展
文化=裸の人間が受け入れられるもの

と思ったからなんですよ
今の人間も裸になれば、自然を受け入れるしかないかないんですよ 


■Nさんから私へのメール
なるほど。

昨日放送されたNHKスペシャルを思い出しました。
アニメ監督の宮崎駿を追ったドキュメンタリーなのですが、
アニメで生命の躍動をどのように表現するか苦悩する宮崎駿に、
AIを用いたCGでつくった、痛覚のない人間のような物体が地面を這って進む映像を「ゾンビに使える」と披露するIT会社の社長。
宮崎駿は、障害を持った友人はハイタッチするだけでも苦労していることを説明し、
IT会社社長に「人の痛みが分かっていない。生命に対する侮辱だ」と落ち着いた厳しい口調で伝えていました。

このやり取りを見ていて、いくら科学技術が発達しても、人間の情・心は変わらないし、大事にしなければいけないとの思いを強く感じましたし、先生のメールを拝見して、それと同じことを感じました。


●私からNさんへのメール
在宅医療でいうなら

最新鋭のデジタル医療機器に取り囲まれた効率的安全運用優先の病院
家庭というアナログ空間

どちらがいいのかなぁ
人それぞれだと思いますが

管理栄養士とまめネット「在宅情報共有」システム ~食事作りというアナログと医療ITのデジタル活用

無題


 島根県では全県下医療ITネットワーク「まめネット」が稼働しています。そのサービスの1つである医療と介護施設で運用する「在宅情報共有システム」が本年4月から本格稼働しています。

 これまでの在宅医療の場合、患者さんごとに医療施設、介護施設が異なる職員が多職種連携を行っていますが、これだと情報の同時共有ができません。しかし、まめネットの在宅情報共有システムを使うと大切な情報をセキュリティレベルの高いシステムで共有できます。

 当院では本年4月から管理栄養士による在宅訪問栄養指導をしており、現在2名の常勤管理栄養士が日々患者さんのお宅で活躍しています。患者さんの現在の食事内容や噛む力、飲み込む力(摂食嚥下機能)を確認して、現在の病態にあった食事の献立、食べ方を家族に伝えたり、実際に台所で作り、それをまめネットで関係者に報告しています。食事を摂るには口腔内も健康も大切ですので、しっかりチェックし、体調全般についても報告します。

 彼女たちの働きぶりは素晴らしいです。実際に、手術ができない腹部腫瘍があり、抗癌剤治療をしない段階になって退院したある患者さんは、お家に帰って元気を取り戻した様子が窺えます。その活躍を実際に彼女たちのレポートとしてお見せします(個人情報を配慮して若干編集しています)。生きる力を取り戻す患者さんを全力でサポートするのが在宅チームの仕事だと思います。

 2つ目のケースのように「左足首のしびれ」といった訴えを患者さんが管理栄養士に相談された場合など、在宅情報共有システムを使えば担当時間内で患者さんの様子で気づいたことをチーム内の医師、看護師といった専門職につなげることができます。治療に結びつくかもしれない、ちょっとした患者さんの訴えが専門職に情報として届けられます

ケース1
腹部悪性腫瘍、脳転移
情報共有施設:病院、訪問看護ステーション、当院
無題

Aさん訪問報告
すぎうら医院管理栄養士:B(2016/11/10 11:24)

 本日訪問しました。
 眼を閉じておられましたが、訪問時はしっかりとお話しできました。今朝はごはん、しじみ汁、ホウレン草と卵のソテー、キャベツと竹輪の酢の物を召し上がったそうです。味噌汁でも特にしじみ汁がお好きとお話しされました。まずは自宅で好きなものを召し上がるのが第一と思います。食事量は少ないのでたんぱく質量は多くありませんが、エネルギー不足にならないような支援が必要です。

 御主人は食事作りが苦ではありませんので、「カリウムの多い食材は少し控え気味の方が良いかもしれません」と伝えています。残歯は数本で奥歯はないものの食事形態は刻むこともなく歯茎で食べられるようです。「やっぱり家のごはんがおいしいわ」とお話しされました。

 口腔内のケアはされていませんでしたので、ジェルを購入していただき日々のケアをご主人に説明しました


ケース2
腹部悪性腫瘍 腹膜転移
情報共有施設:ケアマネージャー、薬局、当院
無題2

Cさん訪問報告 
すぎうら医院:管理栄養士D(2016/11/10 13:24)

 2016/11/10 10:00 訪問
 本日、ご本人、お嫁さんと食事、口腔ケアについて話をしました。
 食事量は推定960Kcal前後、たんぱく質30~35gであるので、病態を考慮すると計算上ではエネルギー1537Kcal、たんぱく質57g程度摂れると良いと思います。今後味覚の変化や食欲が低下する可能性も伝え、ビタミン、微量元素の必要性も説明しました。

 上記をカバーする目的で、栄養補助食品をいくつか紹介し、ポチプラスV(野菜ジュースのような形態で、味覚異常を防ぐ亜鉛も多い)をご本人、お嫁さんにも試飲してもらいました。「野菜ジュースは普段から飲む習慣がないけど美味しいね」と言っておられました。

 口腔ケアについては、退院後から洗口液でゆすぐだけとのことでした。口腔内細菌を減少させ、誤嚥性肺炎を防ぎ抵抗力をつけるためにも歯磨きの必要性を話しました。お嫁さんから「ベッド上でケア出来るように水、受けも用意してあるのでできます」とのことでしたので、今日からお願いしました。舌苔はありませんが、糸状乳頭なく表面はツルツルでした。